町の夜

月のない夜の始まり



※※※



ふんふんと地面の匂いを嗅ぐ。

魔術師の匂いがする。

血を流している。

傷ついている。

それにとても佳い香りのものもいる。



ベルローザは空を見上げた。

鼻が湿る。どこからか湧いてくるように感じる活発な闇。

今夜は夜は長い。

心地よく過ごせるだろう。

目の前を目玉に手足を生やしたものがチリンチリンと音を鳴らしながら通りすがり、それをプスリと爪で刺して飲み込んだ。

味は悪くない。


折あらば手入れしている爪は鋭い。

ふと浮き浮きと気分がのってきた。

うまくやれば、一口二口魔術師をかじれるかもしれない。

魔術師は血を流し傷ついた。

傷は完治していないのではあるまいか。


運が良ければ、丸のみできるかも。

消化の難しい種ではあるが、魔術師を食べたら、鱗も爪ももっとこの上なく美しく輝くかも。

そうして、抜きん出て最も美しい竜になる、という考えにしばしうっとりする。

気配は、町に続いている。

さらには魔術師より佳い香りの濃い気配も。

それも考えを後押しした。

祝祭のときは、魔術師も浮きだっている。

隙ができる。


町では、時々姫の悲鳴が響き渡る時、壁が剥がれる。

魔術師が家に閉じもられると、隙がないが、町は無防備になる瞬間があるのだ。


期待に輝く目を光らせて、のそりとベルローザは町へ向かい始めた。






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