第16話 視点を変える2

「諦められない。」


 それが今の春人の結論だった。まだ、何も起こっていない。そんな状況でまず死ぬことを考えるのはひどくもったいない気がしたのだ。


 もちろん、自分のせいで、タオさんや両親を殺したいわけじゃない。でも今の自分がするべきことは起こることを考えて、くよくよすることではないはずだ。


 タオさんに何度か話しかけてみたけれど、反応がなかったので、春人はゲームの続きを始めた。春人はゲームが好きだ。何かを忘れるためにするんじゃない、純粋にゲームというものが彼は大好きなのだ。


「死ぬまでにクリアしたいゲームがまだまだたくさんあるぞ!」


 来るXデーが1年もないなら、彼は急がなければならなかった。



「春人さん!春人さん!!」


 春人はゲームをしながら寝てしまっていた。


「ゲームの電源切りますよ!?」


「待って!セーブしたっけ!?」


「呆れた。」


「あ、タオさんおあようごじゃいます。」


「もしかして、あれからずっとゲームを?」


「そうです。やりたいゲームがまだたくさんありまして…。」


「何をのんきな。」


「ちょっと待っててください。顔洗っては磨いてきます。」


「はあ?」


 タオの抗議をすり抜けて、春人は顔を洗いにいってしまった。


「はあ、すっきりした!おはようございます、タオさん。」


「呆れを通り越して、もはや感服します。」


「そうだ!昨日どこいってたんですか?何度も声かけたんですが。」


「ああ、すみません。昨日はちょっと。」


「いえ、それはいいんです。タオさんに聞きたいことがありまして。俺のウィルスの研究なんですが、俺が手伝えることって何かありますか?」


「まっっったくないですね。」


「やっぱりそうですよね。じゃあ、俺、ゲームしてますね。タオさんも無理しない範囲でよろしくお願いします。」


「はあ?」


「タオさんって表情豊かですよね。」


「…手伝え。」


「だってさっき、手伝えることないって。」


「うるさい、私が研究している側でずっとゲームされているのは何か腹がたつ。」


「研究はタオさんの好きなことじゃないんですか?」


「好きなことじゃない!」


「え?」


「…これしか私にはないんだよ。」


「何言ってるかわかんないです。それでいくと俺はゲームしかないです。」


「はあ?お前のゲームと一緒にするな!」


「えー。やったことあります?ゲーム。楽しいですよ。もちろん人にはよりますが。」


「お前と話していると脳が混乱する!」


「夢中になれるのが好きってことじゃないんですか。タオさん、めちゃくちゃ真剣に研究してるじゃないですか。」


「…これが、仕事で…。」


「え、じゃあ、ゲームが仕事だったらあんな寝る間も惜しんでやります?」


「…やらないな。」


「ほらー。でも手伝えることがあるなら、手伝わせてください。俺も、できるなら生き残りたい。」


「いや、やはりいい。何の助けにもならない。」


「何ですかそれ。」


「ちょうど昨日、新しい見解を得たんだ。」


「え、なんですか、それ。」


「発症前に、桃の香りがしたそうだ。」


「そうなんですね。じゃあ俺も桃の香りがしたら・・・。」


「そんなウィルスあり得ない。何か人為的なものを感じる。」


「人為的?」


「自然なウィルスの特殊変異ではなくて、生物兵器のような人口的なウィルスかもしれないってことですよ。」


「なんでそんなものがなんで俺に?」


「わからないが、一斉に漏れ出したものが、お前にだけ適合したのかもしれない。」


「え、そうなると、俺がいつ感染したか確認しないとですね。周りの人にももしかしたら、かかっているかも。」


「それはない。未来のお前から発症は自分一人だったと聞いている。…いつ感染したか。」


「どうしたんですか?」


「どうして、それを考えなかったんだ。それならウィルスの増加率から割り出せるのに!」


 タオはモニターを切った。


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