第13話 未来の春人は

 通信が切られた後、春人は放心した。


「タイムマシン?どういうこと?そんなものまで作れるのウォルトさん。チート過ぎない?」


 春人の脳内にはまだ、夜通しやった、ゲームのスクリーンが強く残っていた。急激に眠気も襲ってくる。お腹も減っているが睡魔の方が今は上のようだ。


「ダメだ。わからん。寝よ。」


 そういって、春人は布団に潜り込もうとしたが、急いで歯磨きだけはしに行った。



 次の日も、休日の春人は研究所へやってきた。


「おはようございます!タオさん!」


「オハヨウゴザイマス!じゃないです。春人さん!」


「お!今日は元気ですね。」


「ばれた。」


「あ、やっぱり俺の声入ってた?」


「そうですよ。どうするんです?春人さん、今大混乱してますよ。」


「いいよいいよ。使ってない頭だ。十二分に使わせてやれ。」


「貴方って人は…。」


「話せる?」


「は?」


「俺と。俺からしたら過去の俺と。」


「話してどうするのよ。」


「別に。見てみたいなって。過去の俺がどんなだったか。」



その頃、春人は寝ていた。ぐっすりと。


「起きろ!春人!遅刻だぞ!」


「やばい!」


 今の春人は飛び起きた。モニターに、未来の春人が映っている。


「やっぱり、父さんのこれが一番起きるよな。声、ちょっと似てきたよな。」


「本当に、未来の俺がいたんだ…君が未来の俺。」


「そうだよ。」


「ありがとう。」


「はは。両親を心配させないようにしてくれて、か。」


「さすが、俺。」


「俺はウォルトさんに感謝したよ。また両親に会わせてくれてって。」


「どういうこと?」


「おい、大事なことを忘れてないか。」


「えっと。」


「寝起きかよ。あーあ、俺はお前が羨ましいよ。」


 そう言った、未来の春人の目は、絶望を宿していた。


「羨ましい?」


「お前は見なくて済むんだ。大切な人が、両親が…タオさんが、血を吐きながら苦しんで死んでいく様をな。」


「そうだ。でもそうならないように、俺は隔離されたんだろう?」


「俺のことだから、そうやって楽観的に考えていると思ったよ。」


「どういうことだよ。」


「だから、俺は俺と話したかったんだ。その時に、抵抗しないように。なあ、俺が持つ未知のウィルスが、発症するのを黙ってみてると思うか?」


「どういうこと?」


「発症する前に殺すのが一番だと思わないか?なにせ、俺がいなければあんなにも大勢の人が死ぬことはないんだから。」


「え?」


「春人!」


 そう言ってモニターにタオさんが入りこんできた。


「そうならない様に、私が研究をしています。」


「全然研究が進まないんだろう。」


 画面外から、春人の声がする。


「春人!とりあえず、いったんモニターを切ります。」


 画面は切られた。人は自分がどういう顔を人に向けているか、と言うのはわからない。でも時々、写真や動画を見返して、「あ、俺楽しかったんだな」とわかる時がある。今の春人は逆であった。未来の春人はひどく絶望した顔をしていた。





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