第12話 嘘がつけないタオ

 「俺の声だったよな。」

 

 春人は自分の声を確かめるように発した。間違いないようだった。俺と同じ声の人がいる。春人は考えた。やっぱり、俺の偽物が俺の代わりに生活しているんだ。俺の顔と声を似せた人がいるんだと。それくらいわかんないけどウォルトさんたちならできそうだ。どうやるか知らんけど。俺の偽物に、両親も友人も気づかないとしたら、それはちょっと寂しいけれど、心配されるよりはよほど心穏やかだ。


 だけど、タオさんは変装しているなんてありえません、と言った。


 俺はタオさんを知って、まだ日が浅いけれど、あの人は嘘がつけない人だと思う。多分、人の為に嘘をつく合理性がわからない人だと。タオさんはたぶん俺とそんな年齢差がないと思うけれど、ひどく少女っぽい。だとすると、やっぱり俺が二人いる?どういうこと?クローン?


「ロボット!AIロボットだ!」


 春人はそう結論づけた。ウォルトがいろんな分野の天才であることは、ワクチン製造当時よく言われていた。俺のロボットを作って代わりに生活させているんだ。それなら納得がいく、と。


 それなら、と春人はゲームゾーンに向かった。親も友人も俺を心配しない状態なら、今を楽しんでしまった方がいいからだ。彼の中で一つだけ残る疑問があったけれど、それに気づくほど、彼は頭のいい方ではなかった。彼はやりたかったお高いゲームを早速プレイし始めるのだった。



「春人さん。」


 綾羅木春人は気づかない。


「春人さん!」


 彼のゲームは今佳境を迎えていた。


「あり得ない!」


 タオはゲームの電源を遠隔で切った。


「嘘だろ!?待って、セーブ!」


「綾羅木春人!」


「おあ!え、なに、もう朝!?」


「夜通しゲームに興じるなんていい御身分ですね。」


「タオさん、セーブ…今やっとボスをクリアできそう…」


「朝ご飯は!?」


「えー。」


「朝ご飯は!」


「なんでもいいですよ。何ならその辺のポテトチップス食べて寝ます。」


「わかった。バイタルチェックはお前が寝てる時にでも勝手にする。」


「なんか、今日、元気そうですね。ゆっくり寝れました?」


「…ウォルトさんに言われてな。」


「ウォルトさん、そういうところも優しいんですね。うんうん、よく寝てちゃんと食べてください。」


「それが夜通しゲームをした人間が言えるセリフか。」


「いや、だって最高ですよ、このウィリヤーウォーリヤー。いやー評判よくてずっとやってみたかったんですよね。」


「お前のバカさ加減がよくわかった。」


「そりゃタオさん達に比べたら俺はバカでしょうねぇ。あ!そうだ、会わせてくださいよ、俺のロボット!」


「ロボット?」


「もう、隠さなくていいですよ。いるんでしょう。俺のロボットが。さすがウォルトさん達ですね。親にもばれないロボットなんて作れるもんなんだ。ロボットなら感染とかないでしょう。見てみたいなぁ。」


「…そう思うなら、そう思っとけばいい。」


「え?違うの?」


「…。」


「タオさん、絶望的に嘘つくの下手ですね。色々研究とかって秘密にしなきゃいけないものとかあるんでしょう。そんなんで大丈夫なんですか?」


「…私に友人や両親などいないも同然だ。話すとしたらウォルトさんくらいのものだ。問題ない。」


「何それ寂しい!インドア、陰キャの俺が言うのもなんだけど、俺も一人くらいは友達いるっすよ!」


「研究がある。満足している。」


「まあ、それでタオさんがいいなら俺がとやかく言う事じゃないですけれど。で。じゃあどういうことですか。」


「もう、なんなんだ。」


「ロボットじゃないなら、なんです?俺昨日聞きましたよ。俺の声。」


「お前は余計なことしかしませんね。」


「お前は?え、どういうこと?」


「…。」


「もう履いちゃいましようよ。タオさんが嘘をつけないのは合理性がないからでしょう。ならいいじゃないですか。俺はここから出られないし、ご丁寧に外と通信できない様にしてあるんですから。」


「…あれはお前だ。」


「どゆこと?」


「お前にもわかるようにいうならば、タイムマシンで2年後から連れてきた、お前自身ということですよ。」


「は?」


「これ以上詳しい説明はしない。以上だ。」


 そういって、通信は切れた。


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