第7話 疑惑
綾羅木春人は今、大いに幸せであった。
好きな時に好きなご飯が出てくる。いくらゲームしてても問題ない。そして誰もいない。それは楽園であった。
春人は生来静かな方なのだ。一人で黙々とゲームをしている方が楽しい人間であった。人前に出る時にスイッチを入れるタイプだ。ただぼーっとしているから静かなわけではなく、頭が騒がしいから口が静かになるタイプだった。
例えば、RPGでレベル上げをするとき、すぐ倒せる敵を無心で倒していくタイプもいるが、彼は強い敵をどう倒せばいいか常に分析しながら倒していくし、どこに行って何があったか常に頭の中でマップをつくっていくタイプである。
ところが人との会話というものは大体中身があるものではない。簡単に解けるので、装飾を施すタイプなのだ。
そう、だから彼の学力は決して低くない。家が近いから、という理由で近くの学力としては低めな高校にはいっているものの、東大判定はCである。塾にいくわけでも、家で必死に勉強するタイプでないにも関わらず。
だから彼はゲームに夢中になって楽しんでいるものの、常に頭のどこかで現状の分析を怠ってはいなかった。
3日経った頃、昼ご飯にカレーを食べていると、ご飯が出てくるところからタブレットがでてきた。
映像がつながる。
「春人さん。」
「はーい♪」
タオは咳ばらいをした。
「約束のものは用意した。タブレットに映像が入っている。好きなだけ見なさい。」
そういって、即画面は切れた。
春人はスプーンを置いて、タブレットを見る。ご丁寧に、WIFI機能が切ってある。
がそうは10分少々のもので、帰ってきた父が、料理を作っている母と話しているものだった。
久々に聞く母の声にちょっと落ち着くと春人は思った。母は今日パートであったことを話しており、父が笑いながら聞いている。不思議なのはその取っている画面である。間違いなく、テーブルの上にスマホを立てかけてた状態で、撮っている。なぜこのような画面を取ることができるのか。母親が、耐熱皿を電子レンジに入れて、画面から出るところで終わっていた。何度も再生してみてみた。
会話や、映像に不自然なところはない。また母親はパートであったことを父にも、俺にも話す人だ。この話は聞いたことがない。
春人はちゃんと考えたうえで、タオさんを呼んだ。
「タオさん。」
画面がつながった。
「なんですか。」
「証拠、ありがとうございます。」
「・・・ああ。」
「ところでこれはAIで生成したとかそんなものじゃないですよね。」
「それを言い出したら証拠など意味をもたないだろう。」
「そうですね。本物と信じます。」
「これでわかっただろう。お前の両親は普通に生活している。」
「わかりました。ありがとうございます。」
「・・・では。」
そういって画面は切れた。AI生成などではない。となると不自然なことしかない。まず、親は春人がいないなら、普通にしているはずがない。第二に、どうしてテーブルにカメラがあるのだろう。誰かがこっそり取り付けるならこんなところにするだろうか。もしくはテーブルの上に合っておかしくないものにカメラを仕込んだか。
まだある。母親が作っているのは、春人が好きなドリアだ。春人は子供舌で、カレーとかオムライスとかそういうのが好きだ。特にドリアが好きだけれど、ドリアは手間暇がかかるのが面倒だそうで、春人の誕生日かよほど頼み込んだ日しか作ってもらえない。
父親はそこまでドリアが好きではない。何より奥に用意された皿が3つだ。
そう、この映像はまるで、
「俺がいるみたいだ。」
春人は頭を抱えた。
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