第6話 交渉1
春人は考えていた。何かがおかしい。ウォルトが春人の中に未知のウィルスを見つける、というのは有りうる。けれど、ここに用意されているものは春人のことをよく理解している人でないとあり得ない。けれど調べていたなら、あんな乱暴なとらえ方はしないはずだ。
全部嘘か?いや、それもあり得ない。春人は本当に普通の高校生だ。父親も普通のサラリーマン、母親もパートだ。特殊な会社にいるわけでもない。こんなお金をかけてまでしないといけないことに心辺りはない。多分、春人が未知のウィルスを持っているのは正解なんだと思う。
「っだあー!わかんねぇ!」
春人は叫んだ。こういうことは至極苦手な男である。
「ウォルトさーん!タオさーん!だーれーかー!!」
叫び声に反応してモニターが映った。タオだった。
「タオさん!」
「要件はなんですか。手短に願います。」
「すみません!俺国語は平均点なんで!」
「手短に。」
「タオさん、俺は逃げも隠れもしません。たくさんの人を殺しちゃうようなウィルスを持っているなら俺はここにちゃんと、大人しくしてます。」
「助かります。それだけです?」
「何か隠していますよね?」
「はい。」
「あ、それは認めるんだ。隠してることはなんですか?」
「言えるなら隠さないでしょう。」
「だあもうなんだそれ!」
「合理的な判断をしてください、春人さん。貴方が未知のウィルスを保有している。それだけは間違いない事実です。」
「うわお。」
「何だ?」
「いや、なんか美女に無課金で名前を呼ばれることにちょっとテンションあがっちゃいました。」
「…貴方がアホで助かります。切る。」
「ちょちょちょ、ちょい待ち。」
「何です!?」
「そんな怒んないでくださいよ。せめて、父と母が無事だって証拠だけでもみせてくださいよ。」
「それで納得するんですか。」
「うーん、多分。」
「却下。」
「えー、じゃあ俺永遠に騒ぎ立てます。あれですよね、呼びかけに反応するってことは、俺の声って多分そっち筒抜けなんですよね。うるさいですよね。」
「こういうよくわからない条件を持ってくる奴は苦手です。なんで私が貴方を見る担当なんだか。」
「あ、タオさんが担当なんすね。よろしくお願いします!美女大歓迎!」
「貴方と話してると頭がおかしくなる。わかった。証拠さえあればいいんですね。」
「ありがとうございます!」
返事はなく、通信は切れた。
「あ、あれですよ!話を自分から切っちゃうのちょっと態度悪いっすよ!」
通信は繋がらなかった。春人には自信があった。自分がいなくなって両親が普通に納得するはずがないと。証拠は用意できない。それを使ってまた、話しをしよう。
とりあえず現状することはなくなったので、春人は再度VRに興じた。VRをする前に、春人はよく友達とよく一緒にやっていたゲームにログインしてみようと試みたが、入れなくなっていた。
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