第4話 合理的

 春人の寝ざめは完璧だった。一度で起きて、意識もすぐはっきりした。


「あの!」


 呼びかけてみるが反応はなかった。昨日あのまま寝た自分の図太さに春人は呆れる。春人はいったん部屋を探索してみることにした。浴室もあった。シャワーだけかと思ったらばっちりお風呂までついている。クローゼットまであり、すべて、春人好みの服だった。

 

 まあ、好みと言っても、春人はオールファストファッションのタイプだが。ただ、トランクスまで春人好みである。春人はなぜかトランクスだけは派手な柄が好みのタイプだった。それまで春人好みというのはどういうことだろう。春人はゾッとした。


「あの!ウォルトさん!誰かいませんか?」


 返事はない。仕方なしに、春人はシャワーを浴びることにした。すぐに出るお湯、フワフワのタオル。何もかも完璧すぎて春人は気に食わない。洗濯物と書かれた穴に、着ていた服を入れてみると「シュゴッ」と吸い込まれていった。


「すっげ。」


これは好みだ、なんて春人は思ったが、そういう場合でもなさそうである。キュルルルルという音が聞こえた。春人は昨日の昼飯から何も食べていなかった。キッチンの戸棚を開けてみれば、スナック菓子やらチョコレート菓子が置いてあった。すべてが、春人好みであった。


「おはようございます。」


突然、モニターに切り替わった。昨日の女性が相変わらず無表情で出てきた。


「…おはようございます。えっと、昨日お名前を聞きそびれました。教えていただけますか?」

「私は、ウォン・タァオフウァと申します。タオで大丈夫です。」

「タオさん、ですね、聞きたいことがあります。」

「申し訳ありませんが、確認から入ります。今日の朝ご飯は何が食べたいですか?」

「え、じゃあオムライスを…。」

「かしこまりました。」

「あの、聞きたいことがあるんです。母と家族と話したいんです。モニター越しで構いませんから。」

「却下です。」

「なぜ?」

「貴方の家族は了承済みです。問題ありません。」

「そんなバカな!」

「どうしてそう思われますか?」

「少なくともうちの母親はそんなわかりがいい人じゃないです!こんな話を聞いたら暴れまくりますから。」

「問題ない、としか申し上げられません。」

「もしかして、母親に乱暴したり?だとしたら許せません!」

「貴方は極めて合理的な人間と、ウォルトさんから聞いておりましたが、どうやらそうじゃないんですね。」

「どういうことですか?」

「まだ自覚症状がなくても。ウィルスを保有しているならば隔離は問題ない、と素直に応じるのに、説得できないであろう母親との連絡は希望するのですね。」

「説得できない人って知ってるんですね。なら、より話をさせてください。」

「なぜ?」

「説得できない人なら説得できるまで俺が話すしかないでしょう。」

「非合理です。こちらにお任せください。」

「何の不都合があるんですか。勘弁してくださいよ、もう。」


春人は頭を抱えた。自分は隔離の了承をしているのに、母親と連絡することを拒否されるということがどうしても納得できない。


「じゃあ、わかりました。僕が母親に会いたいので、母親に画面越しでいいので合わせてください。」

「その趣向変更に意味はありません。家族、友人等外部との接触は禁じます。」

「画面越しにウィルスがばらまかれるとでもいうのかよ!」

「話しが平行線になりますので、ここで失礼いたします。」


画面が切られた。


「くそっ!」


春人が毒づいたが画面が再びつながることはなかった。


しばらくして、オムライスがダアイランドキッチンのからウィンと機械音を出してでてきた。


さて、オムライスにもいろいろある。デミグラスだったり、卵がどろどろだったり。

しかし現れたオムライスは春人の好きな母親が作るケチャップライスのオムライスだった。

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