第3話 少しの疑惑
一瞬の無言ののち、ウォルトさんは笑い出した。
「すごいよ、君。まさかこんなすんなりいくとは。何度も言うが僕たちは君を、同意なく、勝手にさらったんだよ?」
「発見して、即捕らえたということですよね?」
「そうです。同意なんて得られないと思ったから、手荒な真似をしてしまいました。大変申し訳ありません。」
「いえいえ、あの、感染させたらどうなっちゃうんですか?」
「致死率100%。」
「は?」
「もはや猛毒に近い。一瞬で血反吐を吐いて、呼吸不全になって死ぬ、と思われる。」
「そうか。俺はそうやって死ぬんですね。」
「いや、君は死なない。」
「なぜ?」
「いわゆる君は母体なんだ。フグが自分の毒でしなないように、君だけは死なない。君の中を使って、発散されるだけだ。」
「つまり、発症すると俺だけ生き残って回りだけ死ぬ、と。」
「その通りだ。君は下手な医学者よりよほど頭がいい。誰も信用してくれなかったよ。そんな未知のウィルスを。」
「きっと、そんなもんなんでしょうね。ウィルスの蔓延なんて、歴史上何回も起こっているのに、それでもウィルスが現れると想定外でしたとみんな混乱していた。」
「そう。まさに、その通りなんだ。申し訳ないが、私の見立てでは発症すると10万人は殺傷できると思う。だから、ここにいてくれないか。」
「10万人!?もちろんです!ただ、あの、なんで俺なんでしょう。俺、健康だけが取り柄で、事故や病気になったことないんです。輸血してもらったり、そういうの一切なかったんですが。」
「日本の医局が認めなかったのがまさにそれなんです。春人さん。感染ルートが全く分からないんです。だけど間違いなく君の血中内には未知のウィルスがいるんです。他に感染している人もいるかもしれない。ただ、とにかく君にはここにいてもらうしかないんです。」
「わかりました。だけど、あの、母親や友人に連絡はできませんか。特に母親。あの人、放任だけど、めちゃくちゃ子供想いなんです。俺がこんなことになってるってわかったら、あの人絶対こっちに来ちゃう。」
「…申し訳ないが、それはできないんです。」
「どうして?」
「申し訳ありません。それでは。」
「あっ。」
モニターが切られた。どうして、連絡を取ってはいけないのだろう。春人の母親は本当に、乗り込んでくるような人なのだ。
春人は疲れていた。VRのし過ぎかもしれないが、事実が多すぎたのだろう。だけど、春人は考えることを止めなかった。
「悲しませたくない。」
なぜ、連絡を取ってはダメなのか。とにかくそれだけでも。けれど、無情にも春人に睡魔が襲ってきた。
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