第2話 連れてこられた理由
春人が目を覚ました時、高い白い天井がまずは目に入った。
天井自体が柔らかく発光していた。
頭だけ動かしてみると、およそ20畳はありそうな広い部屋。
テーブル。ゲーミングチェア。パソコン。アイランドキッチンまである。
視線を上にずらしてみると一面の一部はすべて窓になっていた。
春人が起き上がると、首が少し攣ったような痛みがあった。
「初めまして」
窓が、スクリーンに変わった。美しい女性が映る。20歳前後だろうか。
長い黒髪は細かく光を反射していて、まるで人形のような美しさだった。
綺麗な真っ黒な眼も、薄く形の整った唇からも、全く感情を感じさせない顔。
上半身しか映っていないが、白衣を着ていた。
「連れてくる時に、少々乱暴に注射を打ったため、首がしばらく攣ったような感覚があるかもしれませんが、バイタル等健康面には一切問題ありません。」
「ここは?」
「不毛な話は合理的ではありません。お伝えだけ致します。綾羅木春人さん。」
「はい。」
思わず返事をしてしまった。
「貴方はしばらく私たちの監視下の元、生活してもらいます。この部屋からは出られませんが、衣食住すべての保証をいたします。最新のゲーム機、FOD等は用意しておりますので、好きにご覧下さい。それでは、また所長が空き次第連絡をとります。失礼いたします。」
「・・・どういうこと?」
画面は無慈悲にも切られ、また外の風景に戻った。
まだ薬が抜けていないのだろうか。
春人はぼんやりと立ち上がった。
板張りの床が暖かい。床暖房だろうか。
そういえばちょうどいい温度と、湿度だ。
春人は窓の外を見に行くと、高さは2階、いや3階くらいだろうか。
そのくらいの高さの、どこかの山の中だ。
広い敷地内には高級そうな車と、あまり見たことのない特殊車両もある。
奥にあるのは消防車だ。
どこだ、ここ。春人は思った。
窓に沿って歩いてみれば大きなゲーミングスペース。
チャンネル登録500万人越えの人しか使えないような3面の大きな画面。
「最新のプレクレ6!?DL!?ドリステ・・・最新VRまである!!」
思わず声が出るゲーム好きであった。興奮して中身を見てみれば最新ゲームまでそろっている。
「何これ、楽園かよ!?」
春人は現状のことなどそっちのけで、まずはVRゲームから手を出した。
いつに間にか夜になっていた。
春人は変わらず、VRでシューティングゲームに夢中になっていた。
窓が画面に切り替わる。
「初めまして、綾羅木春人君。」
春人は一向に気づかない。
「春人君。」
全く気付かない。
画面の主はやれやれと言った様子で何かを操作した。
「嘘だろ!?まだセーブしてない!」
慌てて春人はVRゴーグルを外すとゲーム機を確認しだす。
「綾羅木春人君!!」
「はい!」
ようやく気付いた春人はゲームを触る手を止め、画面の方へとやってきた。
「初めまして。私はウォルト・シュナイダーと申します。」
先ほどの女性も天使のようだったが、こちらはいよいよもって、天使のようだった。
サラサラの金髪のキレイ目ショートヘアー。色素が薄いくらいの青い目。端正な目鼻立ちで、こちらも白衣を着ていた。
「綺麗ですね、貴方。」
思わずため息を漏らすように言った。勝手に口が空くほど、まるでそのままAIになりそうな美しさだった。
「…ありがとうございます。」
「初めまして。僕は綾羅木春人と言います。勝手にVRで遊んでしまって申し訳ありません。」
「全然。貴方に遊んでもらうために購入したものなので。」
「なんでまた!?ありがとうございます!」
ウォルトは勝手が違うと言わんばかりに次の言葉をどう紡ぐか悩んでいた。
「あの、綾羅木さん。僕たちは君を拉致したんですが。」
「あ、そういえば、そうでしたね。なんでまた?」
「貴方が特異なウィルスを有していることが判明したからです。」
「はい?」
「発症すると、およそ10万人は殺せるほどのウィルスを持っているんです。」
「それで監禁されたんですか?隔離、ってことですかね?」
「そういう事ですね。」
「そりゃ仕方ないですね。」
いよいよウォルトは面食らった。
「あの、拉致していて恐縮ですが、なぜそんな、すんなり了承いただけたのでしょう。」
「だってありゆる話ですから。全世界にウィルスが蔓延したのはほんとつい最近のことですし。」
そうなのだ。星歴3049年、全世界的に「コード11」という強い感染力を持つウィルスが蔓延した。
感染すると嘔吐下痢から始まり、強い発熱が続く。致死率45%という恐ろしいウイルスだった。
全世界的にステイホームになり、大混乱を招いた。
当時9歳だった春人もあの時の異常をよく覚えている。
家の中でも防護マスクをつけ、食事も国から補充されるものを徹底的に消毒ししていた。
けれど、その混乱は長くは続かないでいてくれた。
若干9か月でワクチンが生成されたのだ。
それを作った偉大な博士はウォルト・シュナイダーという人だそうだ。
その姿は一切公に出ることがなかった。
「待って!ウォルト・シュナイダー!貴方が、ワクチンを作った方ですか!?」
「まあ、そうです。」
こんな若い人だったのか!
7年前だと、発明した当時、今の俺より若い可能性がある。公表されないはずだ。
「ありがとうございます!」
「え?」
「貴方のおかげで世界がどんなに助かったか。会えるなら、ぜひお礼を言いたいと思っていたんです。そうか、そんな人が見つけたのなら、間違いなく俺は変なウィルスを持っているんだな。ありがとうございます!」
「え?」
「俺を隔離してくださって!しかもこんな広い部屋まで用意いただいて、なんと感謝していいか・・・。本当にありがとうございます。」
「いえ、ご理解いただけるなら、こちらとしてもありがたいんですが。」
「それで、僕は何をしたらよろしいのでしょう。何か実験とか、そういうの必要だったかガンガンしてください!そいうことなら、なんだって協力しますので。」
「いえ、基本的には隔離されていただければ結構です。ただ、こちらもワクチンが作れるならもちろん今後のことも踏まえて作成したいので、そのための血液採取等はご協力いただければと思います。」
「もうガンガン採ってください!よかったー。僕、血が多いんでもう大量に抜いてもらって構わないので!」
「いや、そこまでは。何というか、ありがとうございます。」
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