好き避けの悲劇(コメディ)

@ns_ky_20151225

好き避けの悲劇(コメディ)

 なんでそんなことしてたんだろう。

 好きな人を見ないようにしてた。教室では私は廊下側の後ろの席、あの人は真ん中の列の前の方。黒板を見れば後ろ姿が目に入るけど、視界の芯に捉えないようにする。休み時間は下を向いて復習か予習、あるいはお手洗い。あの人は人気があっていつもあちこち動き回ってしゃべってるから目に映らないようにするだけで大変だった。

 一方、聞こえるのは仕方ないって思ってた。耳にふたはないし、聴く方向は定められない。よく通る声で、話し方は理路整然としていてほかとは頭一つ抜けて賢そう。

 時々、頻繁に見てしまう顔は声に似あった色白。でもちょっとにきびがあって、歯は矯正してない。

 そうやって離れてられるふだんの授業は良かったけど、困るのが理科の実習の時間だった。先生がなにを考えてるのか、男女をずらせながら班を組むのだった。だから周期的に一緒になる。その時だけは避けきれない。目の前にあの人がいる。大丈夫かなってばっかり考えてた。口はさっきゆすいだ。でも髪がほつれてる。不潔っぽくないだろうか。そんなこと。

 特に覚えてるのは、体温を測るという実習でお互いに測りあうことになったこと。でも非接触式の体温計なので安心。そばに寄るなんてできないから。私は淡々と三回測って数値を読み上げ、あの人もそうした。もちろん平熱。そんな漫画みたいな迂闊なことにはならない。文字通りクールでいられた。

 体育の時間の後は嫌だった。更衣室が建て替え中なので、一時的に男子だけ教室で着替えてた。終ってから入ると異様な臭いがして女子みんなで悲鳴をあげる。ちょっと面白がってわざと大げさ目に声をあげてたかもしれない。そういうことに潔癖であると示してたんだろう。

 あの人がふらふらと動き回り、私のそばの男子と話しはじめた。

「もー、くっさいなぁ」 なんで言っちゃたんだろう。

「あ、ごめんごめん」 離れてった。

 そんな好き避けが卒業まで続いた。進路は違ってたので二度と会わなかった。そう言えばどこに住んでるかも知らない。あんなに耳をすませてたのになにを聞いてたんだろう。

 これが私の黒歴史です。


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