第3話 三途の川

 葛西晃が目を覚ますと、川辺にいた。 

「ここが三途の川か」

 葛西が三途の川と確信すると、川の向こう側に妻利子と娘麻美が立っていた。

 その二人を見つけると葛西は、三途の川に躊躇する事なく渡り始めた。川は向こう岸に近づくほどに勢いを増した。水深も深くなり、体の半分まで達していた。それでも葛西は、妻と娘に近づきたくて足を早めた。

 川も浅くなり、向こう岸まで数メートルになっただろうか、その時、妻利子が話かけてきた。


「あなた、まだこっちに来ちゃ駄目よ、最後まで地球を守らなくちゃ」


 葛西は、久しぶりに聞いた利子の声に心が震えた。しかし、出迎えるどころか意外な妻の言葉に戸惑いを隠せなかった。


「俺はバッタ星人の大群に勝てなくて死んだんだ」


「タイナイザーNPはまだ生きてるわ、最後の最後まで頑張って」


「もう疲れたし、タイナイザーNPで戦うのも精神的にもう限界だよ」


「お願い、諦めないで地球の運命がかかってるのよ」


「もう死にたいんだ、そっちに行かせてくれ」


「お願い、最強のタイナイザーがそんな事を言わないで」


「パパが死んじゃったら地球がバッタ星人に取られちゃうよ、お願い、諦めないで」


四歳になる娘の麻美の言葉に葛西は、我に返って涙が溢れてきた。


「でも…」


 娘の言葉に弱音を吐けなくなった葛西は、言いかけた言葉を飲み込み、二人をずっと見つめた。

 葛西は心配そうな二人の顔に焦りを感じ、泣きながら頷いた。


「分かった、パパ頑張るよ」


 そう葛西が言うと、利子と麻美は笑顔になった。利子と手を繋いでいた麻美が利子の手を離し、葛西に近づいてきた。


「パパ、これあげる、これがあれば、もうおならで戦わなくても大丈夫だよ」


 麻美が渡してきた物は、黄金に輝く剣のキーホルダーであった。


「あっちゃん、ありがとう、きれいな剣だね、パパ大事にするね」


 葛西は麻美の腕を手繰り寄せて麻美を抱きしめた。ずっとこのままがいいと思いつつも麻美を離した。


 「じゃあ、最後まで諦めないから、その代わりずっと見守っててくれ、パパが寂しくないように、ずっとずっとずーっとだ、頼むよ、パパは寂しがり屋なんだよ」


 葛西の言葉に妻と娘二人は、笑顔で頷いた。

 葛西は二人に分かれを告げて三途の川を戻ろうとすると、不思議と川の勢いは無くなっていた。もとの岸に戻り、振り向くと利子と麻美が手を振っていたので手を振り返した。

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