第2話 いつものように平和が訪れるはずだった

 無事に葛西はタイナイザーNPに変身できた。葛西自体は肥満体型だが、タイナイザーNPになると、なぜかスマートになる。タイナイニウメコマレルヤーツの超進化による超変身のおかげであろう。  


 身軽になったタイナイザーNPは、襲いかかってきたバッタ星人を難なくかわし、握りっぺをかました。       

「ウギャークセーーーッ!」

 バッタ星人が絶叫をあげると、バッタ星人は爆発した。

 バッタ星人が日本語が話せるのかは謎だが、地球を侵略しようとするほどの科学力があれば、日本語を話せても何ら不思議ではない。


 今日も中目黒に平和が訪れた。いや、訪れるはずだった。


 タイナイザーNPの周辺が急に暗くなりだした。タイナイザーNPは、頭上を見上げると大きな大きなバッタ星人の母艦がやってきたのである。その母艦から大量のバッタ星人か降ってきた。何十何百いや、何千何万のバッタ星人が降ってきた。

 百戦錬磨のタイナイザーNPもこの数のバッタ星人を相手にするのは初めてである。

 最初の数百は倒していたが、徐々に足を掴まれ、腕を掴まれ、身動きが出来なくると、さらにバッタ星人が降ってきた。めっちゃ降ってきた。どえれーぐらい降ってきた。「嘘でしょ?」ってくらい降ってきた。「もうよくね?」ってくらい降ってきた。「もう逆にお互いに戦いづらくね?」ってくらい降ってきた。「っていうか、身動きがとれないんですけど」ってくらい降ってきた。


「このままじゃ、まずい、あっちも本気か」

 さすがのタイナイザーNPも焦りを隠せなかった。

 タイナイザーNPはバッタ星人に埋もれる寸前で、一日に一回しかできない奥義、すべてのおならを噴射するBKO砲(バチクソ臭いおなら砲)を放つ事を決意した。


 タイナイザーNPはホラ貝を吹いたような爆音のおならをしながら回転し、飛び上がった。BKO砲を最大限に辺りに蒔き散らす為だ。

 BKO砲が炸裂し、バッタ星人が吹き飛ばされながら、黄金に輝く煙が辺りに立ち込めた。すべてのバッタ星人が、悲鳴をあげる間もなく大爆発した。


(これで明日のワイドショーは、タイナイザーNP悪臭問題が放送されるな)


 そんな事を考えながら、大爆発の中から出てきたタイナイザーNPは、喜びもせず不安そうに頭上を見上げた。母艦から、またバッタ星人の大群が降ってきた。


 タイナイザーNPいや、タイナイザーNPの葛西晃は苦笑いを浮かべ、首にぶら下げていたロケットペンダントの蓋を開け、妻利子(としこ)と娘麻美(あさみ)の写真を見つめた。

「愛してるよ」

 と呟くとペンダントを閉じた。武器の無くなったタイナイザーNPは、己の腕力のみで戦う事にした。

 タイナイザーは武器が無くとも超進化による強靭な腕力でバッタ星人を普通に倒せる。とはいえ、この数である。武器の無くなったタイナイザーNPには、限界があった。

 

 数十匹をパンチで吹き飛ばしたが、慣れない肉弾戦で一瞬の隙をつかれた。また両腕を掴まれて、その両腕を強引に力尽くで近づけ、バッタ星人どうしをぶつけてぺしゃんこにした。しかし、その間に両足をバッタ星人に掴まれて、飛び上がり、両足のバッタ星人を振り払おうとしたが、悪手であった。狙ってたかのように、頭上に大量のバッタ星人が降ってきた。

 そして、タイナイザーNPは大量のバッタ星人の山の下敷きになってしまった。


(どこが最強のタイナイザーなんだよ、おなら出しきったら終わりかよ、だいたいおならが武器ってアホかよ、気持ち悪いバッタ星人に囲まれて死ぬって地獄だろ、いとも簡単にバッタ星人を倒せるんじゃないのかよ?恨むぜタイナイ二ウメコマレルヤーツ、クソがっ)


 最後の最後にタイナイザーNPは、タイナイ二ウメコマレルヤーツに怒りをぶつけた。

 しかし、息もできなくなって死が近づいてきた事を悟り、タイナイザーNPいや、葛西晃はある事に気付いた。


(もうタイナイザーNPで恥をかかなくて済む、     それにあの世で、死んだ利子と麻美に会えるなら、まあいいか)


 そして、タイナイザーNPは力尽きた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る