第42話

夕食はクロがレインとして復活できたことを祝い、とても豪華なものになると言われた。

豪快なメイン料理が並び、スペアリブやミートパイなどの肉料理も登場。

エルフ特製のワインも振る舞われ、大人たちは美酒にも酔いしれている。


その一方で不思議なのはエルフで、皆、酒豪なのかしら?


いくら飲んでも顔色一つ変わらず、呂律が回らないことや千鳥足になることもない。

それどころか……。


「レイン殿下、チェルシー嬢。三人で話す時間をいただいても?」


父親やジルと宝石談義をしていたセフィラスは、食事中、ワインを何杯も飲んでいたと思う。

でもいつも通りの落ち着いた声で、食後の紅茶を飲み終わった後に声をかけられた。


やはりエルフは酒豪だわ。


そう思いながら、セフィラスに案内され、夕食をとった大広間から、こじんまりとした応接室へ移動した。こじんまりとしているが、置かれている調度品には、やはりエルフの神技としか思えない彫刻があしらわれており、全てが一点ものの最高級品に思えた。


草花模様の美しいソファにレインと並んで腰かけると、ローテーブルを挟み、対面のソファにセフィラスが腰をおろす。純白のキトンに黄金の宝飾品と、装いはシンプルだけど、やはり高位な身分を感じさせるオーラがあった。


秀麗な笑顔を見せた後、セフィラスが口を開いた。


「無事、北の魔女の呪いを解くことできました。……状況が変わったので、改めてお二人で今後について考えると思いますが……。もしも変わらず、この森で暮らすこと。宝石を扱うお店をやりたいのであれば、そうしていただいて構いません。森を出るというのも一つの選択肢でしょうし、止めるつもりはありません。ただ一つだけ、お伝えしておくことがあります」


そう切り出して語ったことは、どうやらレインも初めて聞く話だったようだ。


その話は、北の魔女がレインに呪いをかける以前まで遡る。


レインの母親、その名はアン。

王太子妃の婚約者になる以前に、セフィラスは彼女に会っていた。

もふもふの森がまだ広大であり、それはエヴァンズ王国にまで届く程だった。

レイン同様のアイスブルーの髪に碧眼の瞳を持つ、とても美しい公爵家の令嬢だったアンは、もふもふの森へよくピクニックに来ていた。容姿の美しさもさることながら、声も朗らかで軽やかで、彼女が歌えば、もふもふ達が集結する。皆、うっとりとその歌声に酔いしれていた。


もふもふからアンの美声について聞いたセフィラスは、せっかくだから自身もその歌声を耳にしたいと思った。こうしてアンの暮す公爵邸に近い森までセフィラスは足を運び、そこで彼女の歌声を耳にした。


エルフの透き通るような声とは違い、アンの歌は共に口ずさみたくなるようなメロディで、気持ちが軽やかになり、朗らかにになった。明るい気持ちになり、元気をもらえるようだと感じた。


その日からセフィラスは度々、アンの声を聞きに行くようになる。


そんなある日、事件が起きる。


冬眠明けで、餌を求め、小熊を連れた母熊とアンとその侍女達が、森の中で遭遇してしまったのだ。


それだけではない。


その時、母熊は一匹のもふもふ――子ウサギを狙っていた。

その子ウサギは真っ白なのに、右耳の先端だけがグレーの毛をしている。アンはその子ウサギの姿を何度もピクニックで見かけていた。つまり、そのもふもふ子ウサギは、アンの歌声のファンだった。彼女の声を聞きたくて、頻繁にアン達のピクニックを見に行っていたのだ。


アンは自分に注意をひきつけ、侍女と子ウサギを逃そうとした。


だがそれはうまくいかない。

冷静なアンに対し、侍女達はパニックになっている。

見せてはいけない背中を母熊に向け、逃げようとしたのだ。

こうなると母熊は俄然、その侍女を狙う。


すると――。

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