第34話

「レッドダイヤモンドが偽物だったと!? しかもなんだ、その魔法石というのは!?」


父親は仰天し、そして隣にいるジルを見る。


「チェルシーはジル令息。君のところからそのレッドダイヤモンドを手に入れたと聞いている。どうなっているのかね?」


問われたジルはとても困った顔で、私と父親を交互に見ながら弁明する。


「バークモンド伯爵との取引で、自分達は一度も偽物を手配したことなどありません! 職人も熟練の者ばかりで、相場と比べても、職人らにはとても高い給金を渡しています。誰かにお金でそそのかされ、本物を偽物と差し替えるなんて、そんなことはしません」


「だが、最初は本物と、あの男爵令嬢側でも鑑定した。それなのに実際届けられたイヤリングは偽物のレッドダイヤモンドになっていたのだろう? レッドダイヤモンドの加工はジル令息、それは君の所で行われた。納品も……チェルシー、ジル令息が直接行ったのだろう?」


父親に問われ、私は頷くことになる。


「わざわざ屋敷までジル様は完成したイヤリングを届けてくださりました。受け取った後はすぐに金庫へ保管し、翌日にはルナシスタ男爵令嬢に届けています。私が直接持参し、手渡しました」


「チェルシーが偽物に差し替えるわけがない。しかもそれが偽物という理由で、チェルシーはサール王太子から断罪されているのだ。そんな自らの首を絞めるような真似をチェルシーがするわけが……まさか、婚約破棄されることを狙ったのではないか!?」


父親が言わんとすることを私も想定し、レッドダイヤモンドを偽物に、魔法石にすり替えたのは……ジルなのではと思っていた。


まず、ジルはこのレッドダイヤモンドの原石のカッティングから始まり、宝飾品への加工、そして納品と全ての工程に関わっている。魔法石へのすり替えが、一番やりやすい立場にあった。


さらにジルは、私へ想いを寄せてくれていた。サール王太子と婚約破棄になれば、私と結ばれることも可能になる。しかも断罪され、国外追放という流れになり、父親の商才を含め、全てをジルは手に入れることができる状態になった。


ジルの私への気持ちを北の魔女が悪用し、その心の隙間に忍び寄ったのではないか。ルナシスタのように魔法を使われ、レッドダイヤモンドを魔法石にすり替えた……。


今のジルはどういう状態なのだろうか。北の魔女に操られているの?


「まさかバークモンド伯爵は、自分がチェリーと結婚したいからと、彼女が婚約破棄されるよう、レッドダイヤモンドを魔法石にすり替えたとおっしゃるつもりですか!? そんなことするわけがありません!」


「だが随分と手際がよかったではないか。チェルシーが婚約破棄となり、国外追放と知るや否や、すぐに私兵を集めた。あっという間に準備を整え、この魔物の森までやってきたのだ。事前にこうなると、知っていたからではないか!」


「ジル様は善良な方だったはずです。きっと北の魔女に利用されてしまっただけだと思います。北の魔女は狡猾なのでしょう。利用されてしまったのは、仕方がないと思います。私は……あなたを許しますから、教えてください。ジル様、北の魔女とはどうやって出会ったのですか? 魔女はどこにいるのですか?」


ジルは顔を歪め、「そんなことはしていません。自分は何も知らない!」と叫んだが、父親が驚きの声をあげる。


「な、ジル令息、なぜ短剣を隠し持っている!?」と父親が言うので、驚いてジルを見ると。ジルは自身の背に回していた手を、ゆっくり前と移動させた。その手には、短剣を握り締めている……。


「まさか、全てがバレたから、もはやここまでと……チ、チェルシーと心中でも、考えているのではないか!?」


父親の言葉に、血の気が引きそうになる。


「そんなつもりはないです!」と叫んだジルは、私ではなく、父親に短剣を振り下ろそうとした。


すべてを看破した父親への逆恨み!?


クロを失った。

ここで父親まで失うわけにはいかない。


「ジル様、やめて!」


父親に抱きついていた。

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