第33話

レッドダイヤモンドを魔法石に差し替えられる人間は限られていると思う。

とにかく流通量が極端に少なく、希少性も高く、高額なものだから。

そうなると……疑いたくはない。そしてそれが真実ではあって欲しくはないと思うが……。


「チェルシー、大丈夫だったかい!? あんなことがあったのに、何もできずすまなかった。まさかまた気絶するとは思わなかったよ」


「チェリー、自分こそ、身動きできず、役立たずですまなかったです」


森の外で父親とジルが私が来るのを待っていた。


エルフのみんなが着ているような、ほんのりラベンダー色のキトンに着替え、私はセフィラスとエルフの騎士、そしてサール王太子とルナシスタと共に、森の外まで移動していた。勿論、妖精(エルフ)魔法で。


なぜサール王太子とルナシスタも移動したのか。

それは二人にはもう帰ってもらうためだった。

本来、この森は“もふもふの森”であり、部外者である人間がそう簡単に足を踏み入れていい場所ではない。それではなくても立て続けに人間が立ち入っている。でもそれはかなり異常なこと。これ以上エルフを人間の騒動に巻き込むことはできない。それに二人がこの森にいることで、近隣の村へ妖精(エルフ)魔法で移動させた軍が、戻って来る可能性がある。よって、森から出てもらうことにしたのだ。


サール王太子とルナシスタとはどう決着をつけたのか。それは……。


ルナシスタは結局、北の魔女の魔法で負の感情を増幅させられ、私やクロに対し、必要以上に敵対心を剥き出しにしていただけだった。最終的に、私に謝罪もしてくれている。それにチェルシーも嫌がらせをしていたのは事実なので、お互いに許し合うことで和解となった。


いくつかの嘘を並べて断罪にした点については、ルナシスタが父親とも相談し、別途お詫びをするという提案を受け入れた。これは後日家同士での話し合となるだろう。場合によっては裁判にもなるかもしれない。


サール王太子については、クロの件については、本気で悪気はないと分かった。彼の目に、クロは魔獣としか見えず、あの場にいたルナシスタや私を守るため、動いただけなのだ。祭壇で見たクロのことを思い出すと、サール王太子に黒い気持ちをぶつけたくなる。でもそこは抑えるしかない。一旦、悲しみと怒りの感情に蓋をした状態だ。


かつ婚約破棄と断罪をした張本人であるが、サール王太子は深く反省してくれていた。断罪内容が死刑ではなく、国外追放になったのは、彼の温情だったことは、本人の弁明で明らかになっている。


チェルシーがしていた嫌がらせの原因が、サール王太子とルナシスタの浮気に基づくことは、彼自身も理解していた。そして婚約破棄のために、偽りを含めた罪を並べ、断罪してたという自覚もある。よって絞首刑を下すなどできなかった。それでもルナシスタが私がこの国に残ることを嫌がり、最終的に国外追放で着地していた。


そしてチェルシーのした嫌がらせを理由に、婚約破棄することは、本来難しかった。その点については、婚約契約書に沿った賠償金や違約金は払うと、サール王太子は明言している。さらにルナシスタ同様、嘘を並べた断罪の件は、別途話し合うことで落ち着いた。


限られた時間の中で、すべてに決着がついたわけではないが、概ねの方向性は決まった。


ということでサール王太子とルナシスタは移動が終わると、早々に馬に乗り去って行き、父親とジルは「あの二人を帰していいのか」という顔をしているが、今はいいのだ。もっと重要なことがあるのだから。


そこで私はまず、レッドダイヤモンドが偽物だったことを、父親とジルに話すことになった。


本物と信じて疑っていなかったので、二人とも大いに驚くことになる。

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