遂に……

第24話

森の外に現れた人物の特徴を聞いた私は理解する。

それは間違いない。

サール王太子とルナシスタ。

なぜ突然、現れたのか。

指輪だ。

婚約指輪!


私はセフィラス、父親、ジルに手短に事情を説明する。

その間、抱き上げたクロのことは、ずっとその背中を撫で続けていた。

なぜなら。

セフィラスにクロの様子を見てもらうと、こう指摘されたからだ。


「この世界のもふもふは、ストレスに敏感と言われています。それはもふもふがか弱い存在であり、ストレスに敏感ではないと、危険な状態に陥り、命を落とすことにつながりかねないためです。とはいえ、クロ様の場合は、それだけが原因ではないでしょう」


そこでセフィラスは私の胸の中でぐったりしているクロに触れ、何かを呟いた。でもそれは人が理解できる言葉ではないようで、何を言っているのか、分からなかった。その後、セフィラスはこんなことも伝えてくれたのだ。


「エルフともふもふは、この森で暮らしていますが、完全な依存関係というわけではありません。よってもふもふのことを、エルフであるわたし達が完璧に理解しているのかというと、そういうわけでもないのです。その逆もしかり。わたしからアドバイスをするのであれば……クロを抱きしめ、クロのことを想ってあげてください。そうやって抱きしめ、撫でるだけでも、効果はあると思いますよ」


クロを助けたい一心で、その背を撫でている。

クロのことが心配なのに。

最悪なタイミングで現れたサール王太子とルナシスタには本当に頭にくるが、二人の目的は分かっている。よって私が会いに行くと、父親とジル、セフィラスに表明すると……。


「ダメだ、チェルシー! 危険過ぎる。サール王太子は軍を引き連れ、森の一部を取り囲んでいるのだぞ。指輪は父さんが預かる。父さんがサール王太子に返しに行ってくるから、お前はここにいなさい」


父親は青ざめた顔で、私がサール王太子達の所へ行くことを止めようとする。さらに代わりに自分が指輪を返しに行くと言い出した。


「自分も反対です。バークモンド伯爵と自分で行ってきます。幸い、自分の私兵がこちらへ向かっているのですから、いざとなれば身を守ることができるでしょう。それに自分はカーラン国の貴族です。下手に手を出せば、戦禍の火種になりかねません。さすがに無茶はしないでしょう」


ジルの言葉に父親は「うん、うん」と頷き、「父さんとジル令息で向かう!」と息巻く。一方のセフィラスは……。


「大変申し訳ないのですが、わたし達はあくまで中立です。人間の争いごとに関わることはありません。ただ、森に手を出されたら話は変わってきます。森に牙を剝く者には、対処することなるでしょう」


セフィラスの言葉は尤もであり、私も巻き込むことは本意ではない。というか、婚約指輪ごときで軍を動かすサール王太子には心底頭にくる。しかも私が出て行かないと森に火を放つ、だなんて。昨日の今日なのだ。少しぐらい待て!と思ってしまう。


その一方で、サール王太子を急かしたのは間違いない。ルナシスタだろう。指輪がないと、婚約が成立しないから……。


それだけではないわね。


ここは魔物の森と言われている。サール王太子もルナシスタも、ここに魔物がいると思っているはずだ。つまり早く私を見つけないと、私が魔物に喰われたり、害されたりする可能性がある。特に前者の場合。魔物の胃袋から婚約指輪を見つけ出すのは困難だと考えた。とはいえ、夜に魔物の森に近づくなんてリスクはおかせない。よって朝一で王都を出発、やってきたということね。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る