再会

第15話

朝食を楽しむ私達の元に突然持たされた森に近づく人間の情報。


セフィラスはそれ聞くと、あのエメラルドの瞳で一点を見つめた。

宝石のように澄んだ目は何を見ているのだろう。

とても真剣で、セフィラスからはこれまでにない強いオーラを感じる。


「フッ」と口もが緩み、肩の力が抜けたセフィラスを見て、椅子から崩れ落ちそうになった。


もう拝むのではなく、ひれ伏したくなる美しき仕草。

ああ、神様、もふもふ様、エルフ様。

この世界へ、この森へお導きいただき、ありがとうございます。


私が完全に乙女ゲームモードになっている一方で、セフィラスは静かに「……二人だね。二人の人間が、あの集団の中心人物だ。何よりこの森の中に入ろうとする意志を感じる。この二人には許可しようか。中に入ることを。後は森の外だね」と告げた。


この瞬間、もしかしてさっき、森の外の様子を見ていたの!?と思い至る。

それに驚き、そしてさらに。


セフィラスに報告を行ったエルフの姿が消えた。

長身で、セフィラスと同じ長い髪を持ち、騎士の装いをしていたエルフが目の前で消えた不思議に、驚愕を隠せない。口をぽかんとしばらく開けてしまい、慌ててグラスの水を飲み、この伯爵令嬢らしからぬ姿を誰かに見られていないかと、周囲に目を配る。


「あっ……」


バッチリ、クロと目があった。

そのサファイアの瞳は「見てたよ、チェルシー。口がぽかんと開いていたよ」と間違いなく、言っている。


例えクロがもふもふの猫でも。見られたと思うと恥ずかしい!


「クロ様、チェルシー嬢」


セフィラスの美声に我に返る。


「お食事は……そろそろ終わりましたか?」


実はあと二つぐらいイチジクを食べたいと思った。初夏の大ぶりのイチジクは、水分が少なく、味が濃縮されているように感じる。つまりは美味しい。でもきっとまた食べられる。ということで「はい、ごちそうさまでした」と伝えると「では少々よろしいでしょうか」と言われ――。


セフィラスが私の手をとった。

いわゆるエスコートをしてくれたわけだけど……。

触れたセフィラスの手の素晴らしさに、涙がでそうになる。

透明感のある肌をしていると思ったけれど、その手のすべすべさと言ったら……。前世の手タレも嫉妬するような素晴らしさではないか。爪の形も綺麗に整えられ、ささくれもなく、そもそも皺がない。


エルフなんて長寿で知られているし、基本、その命は無限と考えられている。見た目は同年代だろうけど、セフィラスのこの落ち着きからすると、間違いなく年上。それなのに、こんなに肌までもが美しいなんて……。


ペシッと脚に何か当たり、ハッとする。


私の横を、とことことその長い手足を使い歩くクロのもふもふの尻尾が鞭のようにしなり、私の脚に当たったようだ。さっき一番はクロだと伝えたのに。セフィラスにデレると、クロは不満なようだ。


こんなに愛らしいもふもふ猫が、ぷりぷりする姿は……これまた愛(う)い!

再びクロをもふりたくなりながら、セフィラスにエスコートされ……。

ツリーハウスにいたはずだったのに。

気づけば森の中にいる。

足元には柔らかい草が広がり、周囲には木々が広がっていた。


間違いなく妖精(エルフ)の魔法が使われている。それは魔法使いのように、呪文を詠唱するものではないようだ。しみじみエルフってすごい――と思ってしまう。


「!」


目の前に、二人の人間が横たわっているのが見える。


一人は、ブロンドに鼻の下に髭を生やし、ラベンダーグレーのセットアップを着ている。もう一人はダークブラウンの髪に、マロン色のスーツを着ていた。


間違いない。


これは私の父親マイク・バークモンドと、父親の取引先の相手であり、隣国で宝石商を営む領主の息子ジル・ローダーだわ。


つまり!


私がこの森に追放されたと知り、隣国から駆け付けてくれたのだ。

父親に加え、ジルが来てくれたことにも、感動を禁じ得ない。


「その表情から察するに、かなり親しい方のようですね? 念のためで気絶させる形になり、申し訳ありません」


セフィラスは私の表情を見て、二人が私の知り合いであると、しかも深い知り合いであることを看破している。これはセフィラスだからなのか。それともエルフだからなのか。ともかくその観察眼は素晴らしい。


私は二人が何者であるか説明すると、セフィラスは優雅に微笑む。


「分かりました。ではこのお二人はわたしの館へお連れしましょう。申し訳ないのですが、森の周囲にいらっしゃる方々は、そのまま近隣の森へ移動させていただきます。武器も所持されていますので」


魔物の森に向かうつもりで、父親とジルはいたはずだ。きっと兵士を連れてきたのだろう。でも確かにこの森に、武器は不要だ。


セフィラスの提案に異論などなかった。

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