第13話

もふもふの手触りに嬉しくなり、ぎゅっとその体を抱きしめてしまう。


「チ、チェルシー……」


苦しいけれど、嬉しいという絶妙な声をクロが出し、目が覚める。

ああ、なんだかもふもふを全身で感じ、嬉しくなる。


「クロ、あなたなんだか大きくなったわね」


胸の中でクロを抱きしめているのに、なんだか太ももの辺りにも、もふもふを感じる。

もふもふの気持ちよさに、瞼越しに朝陽を感知しているが、目を開ける気になれない。

すると。


「いや、チェルシー、一日でボクがそんなに成長するわけないだろう。……というかボクのチェルシーになんでこんなにもふもふが……!」


クロの言葉に目を開けてビックリ!


私のベッドの周りには、昨日もふりまくったもふもふ……ウサギ、リス、スカンク、キツネ、アライグマなどが集結していた。


「「「「「「チェルシー様、おはようございます」」」」」


もふもふが目をくりくりさせ、一斉に挨拶をしてくれる。


な、なに、この朝からの神展開!?

嬉しすぎて全員、もふりまくる。


最高。幸せ、もふもふの森、万歳!

一生、この森を愛します!


「な、チェルシー! 古参のボクを差し置いて、子ぎつねをもふるなんて許せない!」

「ちょっとクロ、キツネの尻尾に噛みついちゃダメでしょう!」

「甘噛みだもん!」「ダメよ! 離しなさい」


朝からもふもふが、私の寵愛の奪い合いしてくれるなんて。

まさに夢のよう。

よだれが出そうなぐらいデレていると……。


「おはようございます、チェルシー様。間もなく朝食の用意が整います。御支度をお手伝いしましょうか」


大変美しいエルフの女性の声に、慌てて私はもふもふを体から離し、ベッドから起き上がる。そしてとってつけたように「は、はいっ、お願いします!」と返事をする。


もふもふを、もふっていただけだ。何もやましいことはない。

でもなんだか寝間着の乱れを気にしつつ、女性のエルフに室内へ入ってもらった。


用意された衣装は昨日と同じ、コタルディのようなワンピース。色は優しいローズピンク色。ウエストにつけるベルト代わりの紐は、金色。結び目に薔薇の飾りをつけてくれた。白木で作られていると思うが、ものすごい繊細に仕上げられ、本物の白い薔薇みたいに見える。


エルフって細かい作業が得意なのね。まさに職人技。


準備が整い、クロやもふもふたちと共に案内されたのは、昨日と同じ庭園だ。


昨日、明かりを灯していたカンパニュラの花は、蕾の状態に戻っている。不思議だった。これ、きっとまた夜になったら咲くのよね。


カンパニュラの代わりなのか、庭園では清々しい鳥のさえずりが聞こえる。爽やかな朝の演出には、ピッタリの鳥の歌声だ。


そしてテーブルに並ぶのは、たっぷりのフルーツ。様々な種類のサンドイッチ。どうやらビュッフェ形式のようだ。テーブルと椅子は、昨晩と変わらぬ数が用意されている。だが着席しているエルフの数はまばらで、食事中のエルフ、食事を終えたエルフ、私達と同じように今来たばかりのエルフと様々だ。


「おはようございます。クロ様、チェルシー嬢。そしてもふもふのみんな。エルフ達はそれぞれすべきことがあるので、朝食はいつもこのように自由です」


朝からセフィラスの美声に頬が緩むと。


ペシッと左腕に肉球の気配を感じた。

見ると、抱っこしているクロが、プイッと横を向く。


セフィラスに対しても、他のもふもふに対しても、クロはや焼きもちを焼いているようだ。

でも確か、多頭飼いをする際は、先住猫を立てることが大切なのよね。


そこでクロを少し持ち上げ、その耳元で伝える。


「クロ、大丈夫よ。セフィラスよりも、他のもふもふよりも。クロが一番なんだから。何せ前世から付き合いなのよ。心配する必要なんてないわ。クロが絶対でエースだから」


その瞬間、クロの全身から力が抜け、くたりと私に体を預けた状態になった。

なんだか昨日からずっと、抱き上げると私の胸にふれまいとして、手足を強張らせていたのに。

今は完全に……骨抜きになっている!


骨抜きになったもふもふ。

これはもふるチャンス!


しばし朝食そっちのけで、クロをもふりまくった。

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