第12話
もふもふとエルフの最後のサンクチュアリ。
そこに人間である私がお世話になりたいと相談したら、セフィラスはどんな反応をするのか。
不安だった。
夕食の席。
まずは美味しく食事をさせていただき、その上で相談することにした。
というのは言い訳かな。
あれだけしっかり昼食をいただいたのに。
日が暮れると、もうお腹が空いている。
特に何もしていないのに!
「今日は気候もいいですから、夕食は外で楽しみましょうか」
セフィラスの提案で、ツリーハウスに設けられた庭園で夕食となった。
ツリーハウスに庭園があること自体驚きなのに!
その庭園が本当に素敵。
「小さな鐘」と表されるカンパニュラの花が一面に咲いていた。その色は、パープル、ラベンダー、ブルー、ホワイト。そしてこれは妖精(エルフ)の魔法なのだろう。花の中に蛍でもいるかのようにぽわっと光が一斉に灯ったのだ!
もうその美しさったら……。ランタンなどいらないぐらい、優しくて穏やかな光で、庭園が満たされた。
そこにテーブルがいくつも用意され、料理が並べられたのだけど……。
前世で言うなら、トマトとオリーブオイルを使った魚介の煮込み料理であるアクアパッツア、パエリア、カルパッチョなどの魚料理がずらりと並んだ。さらに昼同様の新鮮な野菜は、サラダで登場。焼き立てのパンも運ばれてきた。
そこにいつの間にか集まって来たエルフ。
みんな美男美女で本当に美しい。セフィラス同様の淡い色合いのキトンを着て、鈴を転がすような音色で笑っている。その姿を見て、声を聞くだけで、癒される。もふもふのためのテーブルも用意され、そこには彼らの好物が並べられていた。
こうなるともう、まずは食事をしましょう!になる。
しかもセフィラスは、クロの大切な客人として、私を紹介してくれたのだ。エルフはみんな、慈愛のある微笑みで、私を歓迎してくれた。
というわけで楽しく食事をして、そしてテーブルの上にデザートとして、フルーツのタルトが登場し、フラワーティーが登場すると。クロが私のところへやってきた。
「チェルシー!」と声をかけられ、そのサファイアの瞳を見ると、こくりと頷いたクロがジャンプして、私の膝に乗った。
「セフィラスに話そう。ボクから切り出してもいい?」
キリッとしたクロは、もふもふ猫とは思えない。
猫だと分かっているのに、思わず頼りにしたくなる。
ここはクロに任せ、セフィラスに声をかけてもらい、そして――。
「なるほど。宝石を扱うお店をこの森で経営し、物々交換をされたいと。そしてご自身ができるお手伝いをするので、この森で暮らしたいのですね」
セフィラスは決して大声を出していない。
ただその美しい声は、よく通る。
気づけば周囲のエルフ達は会話を止め、彼の声に耳を傾けていた。
それが分かるから……緊張する。
「クロ様もチェルシー嬢がこの森にあることを望むのですよね?」
「はい。ボクはチェルシーにとてもお世話になりました。その恩を返したいと思っています。チェルシーのことはボクも手伝いますから、どうかお願いします」
もふもふのクロが頭を下げ、私もあわせて頭を下げた。
「クロ様が望むのであれば、わたしは異論を挟むつもりはありません。喜んで、チェルシー嬢を迎えましょう。……皆様も、異論はないですね?」
この言葉にドキドキしながら顔をあげると、エルフ達は穏やかに微笑み、そして賛同の拍手をしてくれる。周囲にいたもふもふたちもそれぞれ鳴き声をあげ、賛同を示してくれた。
これには胸がジーンと喜びで満たされる。
ここにいるみんなは、人間が森を焼き、住処を奪う存在だと知っているのに。その人間である私を受け入れてくれた……!
「ありがとうございます!」
嬉しすぎて声が震える私を見て、クロは「良かったな、チェルシー」と、そのサファイアの瞳を細める。そして楽しそうにふさふさの尻尾を揺らした。
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