第6話

もふもふからの、絶品過ぎる昼食。

なんて美味しい食事なんだろう!


伯爵令嬢なので、屋敷では毎食、調理人が料理した大変美味な食事を楽しませてもらった。ソースとか手間暇かけて、三時間かけて作りました、なんてものがざら。


でもね。

エルフであるセフィラスの館でいただいた料理は、手は込んでいない。

しかも肉無し、お野菜料理。

別にエルフはベジタリアンではない。ただ、本日は狩りをしていないので肉はなく、お野菜だけです、ということ。でもこの野菜だけで、いけるのです!


基本は茹でたり、蒸したり。


それに塩をちょこっとつけて食べる。


でもそれで野菜本来の美味しさが口の中でじわ~っと広がるの。ジャガイモはサツマイモかと思うぐらい甘い! トマトはぶどうみたいにジューシーでスウィート。ニンジンだって私は馬かと思うぐらい、がつがついけてしまう。


なぜこんなに美味しいのか。セフィラスに思わず尋ねると「さあ、なぜでしょうか。わたしたちエルフは、歌いながら農作業をするのですが、そのせいですかね?」と言うが、そのせいだと思います! 作物たちはエルフの歌声に酔いしれ、俄然頑張って成長し、美味しくなってくれているのだと思う。


ということであまりにも満腹で動けない私は、セフィラスの言葉に甘え、テラスに出てびっくり!


テラスではなく、これはバルコニーでは!?

だって。

眼前に見えるのは、もふもふの森の木々。眼下に見えるのは、セフィラスの館の庭……でいいのかしら? ともかく私はツリーハウスにいるのだと理解した。つまり、木の上に建てられた館!


想像してみて。


ヨーロッパにありそうなお城のような館が木の上に建てられているの。それは勿論、一本の巨木ではなく、複数の巨木をまたいで作られているみたいだけど。こんな館があるなんて、森の外からは分からなかった。これもまた、妖精(エルフ)の魔法なのね。感動。


幼い子供の頃、一度はこんなファンタジーの世界に行ってみたいと思った。まさかそれを乙女ゲームの世界にて体験できるなんて。最高過ぎるわ……!


「チェルシー、膝にのっていい?」


バルコニーに置かれた白いラタンチェアに腰をおろした私に、クロが声をかけた。「勿論よ」と応じると、クロはふさふさの尻尾をひとふりすると、軽々とジャンプして、私の膝にのる。


しばらくもじもじとした後、ベストポジションが決まったようで、おもむろに丸くなった。香箱座りをして、ふわりと尻尾を自身の体に寄せる。


私は「よし、よし」とクロの頭を撫でた。


「……チェルシーはさ、さっきの昼食、食べるのに夢中だったよね」


クロが私を見上げた。

クロの瞳はサファイアみたいに青い。木漏れ日を受け、本物の宝石のようにキラキラしている。


「そうね。クロも離れたテーブルでご馳走をいただいていたわよね? 釣ったばかりの魚だと聞いたわ」


「うん。そうだよ」


そこで舌をチロッと出して口の周りを舐めるクロは……!

キリッとしているのに。可愛い!


「でも食べている合間にさ、セフィラスが話しかけると……とろけそうな顔をしていたよね」


「え、そ、そうかしらぁ?」


声が裏返っている!


「していたよ。分かりやすく。これまでさのチェルシーは、サール王太子にも他の令息にも、あんな顔したことないのにさ。チェルシーは、セフィラスみたいなのが好みなわけ?」


クロがなんだか拗ねたような顔をしている。

もふもふで愛らしい上に、こんな表情をするなんて~!

クロは罪な猫だわ。それにもふもふの猫なのに、恋バナっぽいことを口にするなんて。


「クロ、何をあなた、人間みたいなことを言っているの? 可愛らしいもふもふなのに、おませなんだから! セフィラス様はエルフよ。私からしたら大天使みたいな存在。好みうんぬんを超越しているわ。まさに祈りを捧げたくなるような、至高の存在よ」


「チェルシーが何を言っているか分かんないよ。何、至高の存在って? ……ボクだって  になりたかったよ。せっかくこの世界に来たのだから」


「え、何? クロ、今、聞こえない言葉があったわ」


私の問いかけに答えず、ぷいっとクロはそっぽを向くと、目を閉じてしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る