第5話
セフィラスがあまりにも尊いので、なんでもかんでも許せそうだが、実際。
本当に不幸中の幸いなのだ。
なにせ歩きながら脳はフル回転というのは、なかなかに疲れること。この快適な部屋で横になっている間に、前世と今生での記憶の融合は完璧に終わっていた。しかも目覚めるとネクターのような甘くて癖にになる不思議なドリンクもいただけたのだ。何よりも、ボロボロになったドレスの代わりに着せてくれたベビーブルーの寝間着は、とても着心地がいい。恐らく、エルフの特別な生地なのだと思う。通気性がいいのに、保温力があり、肌にも馴染む。触り心地がいいし、皺になりにくい。完璧だった。
「まだお昼まで時間があります。昼食まで横になっていただいてもいいですし、起きていただいても大丈夫です。どうされますか?」
昼食……! まさか昼食をご馳走してもらえるの!?
もはやセフィラスから何を言われても幸せな気持ちになってしまうが!
大切なことを確認しないとならない。
「お気遣い、ありがとうございます。その前に二つ、質問をしてもいいですか?」
「勿論ですよ。何でしょうか」
口元が緩みそうになるのを必死にこらえ、セフィラスにまず尋ねたのは、クロの所在だ。伯爵家の屋敷でクロを飼っていた時、クロはいつも枕元でチェルシーと休んでいた。だが、今、クロはそばにいない。
「ああ、クロ様なら隣室にいますよ。ゆっくり寝かせてあげた方がいいとわたしがアドバイスすると、従ってくれたので。あなたに興味を持ったもふもふ達もみんな、隣室で待機しています」
クロがすぐ近くにいると分かり、安心できた。しかも私に会いたいもふもふがいる? それはなんて……夢のようではないですか! 喜んで会います、もふります!と心に誓う。
「あの、先程の会話の様子ですと、昼食をご馳走いただけるようですが、クロから何か話を聞いていますか?」
共に暮らしているというのなら、もふもふとは意思疎通を普通にできるのだろうと思い、尋ねてみると……。
「ええ、聞いていますよ。ご事情があり、しばらくこの森に滞在したいと。森に火を放ったり、もふもふ達に嫌がらせをすることはないと聞いています。むしろクロ様のことを助け、この世界に転生されたと聞いています」
そこまで話したの、クロは!と驚いてしまう。でもおかげで私は悪人ではないと認定してもらえたようだ。森での滞在も許可してもらえた。
「クロ達を呼ぶ前に、着替えをされた方がいいでしょう。この世界の人間の皆様が着ている衣装とは、少々違うものです。慣れるまで手伝いをつけましょう」
そこでセフィラスがベルを鳴らすと、彼と似た髪の長さはボブで、淡いピンクのキトンを着たエルフが部屋に入ってきた。入れ替わりでセフィラスが部屋を出て行き、代わりにこの女性のエルフが入ってきて、着替えを手伝ってくれる。
用意された衣装は、体にフィットしたコタルディというワンピースに似ていた。まずはドレスで使うのとは違う下着を身に着け、ブルーベリーのような色味のワンピースを着る。後はウエストに、タッセルのついた銀色の紐を、ベルトのように飾り付けて完成だ。てっきりキトンのような衣装を着ることができるのかと思ったが、これはこれでとても素敵だ。やはり布の触り心地と着心地が抜群。
そのまま女性のエルフに案内され、隣の部屋に行くと……。
「チェルシー!」
そこは応接室になっており、暖炉とソファセット、壁際には本棚が並んでいた。そのソファで丸くなっていたクロが飛び起き、こちらへと駆けてくる。同時に。クロのそばにいた、ウサギ、リス、スカンク、キツネ、アライグマなどの大変愛らしいもふもふ達も、一斉にこちらへと向かってきた。
これにはもう興奮するなというのが無理な話。
しかもそのもふもふ達と会話ができるのだから!
昼食まで、しっかりもふもふ達を、もふりまくった。
そして……いよいよ昼食の時間になった!
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