第4話
大変美しい声が聞こえた。
その声は、まさに天使の歌声とでもいうのだろうか。
高音な男性の声にも聞こえるが、女性のような柔らかさもある。
とにかくその声に癒され、目が覚めた。
目が覚めた瞬間。
全身で感じる心地良さに、口元が緩むのを抑えきれない。
とんでもなく寝心地のいいベッドだわ。
私が横たわっているのは、真っ白なリネンで整えられた天蓋付きのベッド。
視線を周囲に向けると、一面が窓になっており、あふれんばかりの陽光が降り注いでいる。さらに足元をみれば、そこには暖炉、ソファセット、調度品が見えるが……。
それらの家具には、見たこともないレリーフの模様が彫られている。というか、この透かしたような彫りは何!? できるの? どうやって彫ったのかしら? まるで神技に思える。
「あっ!」
とんでもなく美しい……人? いや、違うと思う。耳の形がとがっている。鼻の高さも、チェルシーよりもさらに高い。しかもこんな瞳の人、見たことがない。その目はまるでエメラルド。さらにその肌は透明感があり、着ている衣装は……そう、ギリシャ神話の神々が着ていそうなキトンだわ!
純白のその衣装には、襟や袖に金糸でこれまた複雑な模様が刺繍されている。しかもその刺繍はキラキラと輝いて見えた。髪はチェルシーと同じストレートのホワイトゴールド。
なんて美しいのだろう。乙女ゲームの攻略対象がイケメン、カッコイイ!なんて騒いでいた自分がお子ちゃまに思えてしまった。まさに神レベルの美しさ。
その神のようなお方は、何をしているのかというと……。部屋の入口の扉の横には、ちょっとした水場がある。そこでどうやら飲み物を用意しているようだ。
「目覚めましたか?」
この声!
歌っていたのはこの人なんだ。なんて心を溶かす美声なのだろう。
トクトクと心臓を高鳴らせながら、その姿を見てしまう。
トレーに飲み物をのせ、その人ならざる方が、こちらへと歩いてくる。
「あ、あ、あの、助けてくださり、ありがとうございます」
「いいえ。あなたは悪い方ではないのに、妖精(エルフ)の罠が発動してしまい、ご迷惑をおかけいたしました」
「……妖精(エルフ)の罠?」
この一言をきっかけに、目の前にいる方がエルフであり、名前はセフィラスということが分かった。女性みたいに美しいが、男性のエルフ。そのエルフがなぜもふもふの森にいるのかというと……。
元々この森はもっと広大であり、そこにエルフともふもふな動物たちが沢山暮らしていた。だが森は人の手で開拓され、残された森は、この辺り一帯のみ。広大な森に散らばっていたもふもふたちも集結し、今はここでひっそり暮らしている。
つまりこの森は、エルフともふもふにとっての最後のサンクチュアリ。
人が近づかないよう、もふもふは幻影スキルを使い、エルフは『妖精(エルフ)の罠』を仕掛けていた。
妖精の持つ特別な力――妖精魔法がかけられた罠を踏むと、意識を失うようになっていたのだ。意識を失った人間はそのまま森の外へ運んでしまう。
こうしてもふもふの森(サンクチュアリ)は守られてきた。
「チェルシー嬢、あなたがふもふのお友達とは思わず、大変失礼しました。意識を失ったあなたのことは、我々がこの館に運ばせていただきました」
自身の手に胸を添え、頭を下げるその姿は、もう拝みたくなるレベル。ゲームで見たことがないキャラクターであり、この世界ではモブ扱いなのだろう。でもモブというレベルではない。では攻略対象かというと、そこさえ超越している。攻略などしてはいけない。もふもふ同様、愛でる存在。
「い、いえ。おかげで休憩できましたし、この大変美味しい飲み物もいただけました」
思わず声が震えるのは、あまりにもこのセフィラスが美しいからだ。
「それは不幸中の幸いということにしていいのでしょうか」
ほ、微笑んだ~。
モナリザのような柔和な笑顔。癒しだ。やはり拝みたくなる!
愛でるのではない。拝むべき存在だわ。
ドキドキする心臓をなんとか落ち着かせようと苦戦しながら答える。
「は、はい。そう思っていただいて大丈夫です」
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