第7話 危うし!髑髏の戦鬼
必殺の海冥毒の洗礼をしたたかに浴びたモラレスの意識はたちどころに朦朧となり、視界は幾重にもぼやけ始めた。
「ち、ちきしょう…な、何て強力な毒…そして爪なんだ…!
い、今さらながら、以前の龍坊主とは比べ物にならねえぐらいパワーアップしてやがる…。
へ…ヘタしたら、コイツが五、六匹もいりゃあ錬装者チーム全部を潰せるんじゃねえのか…?
だ…だがよ、このモラレスさまにもアイツと並んでツートップと称された意地がある…こ、このままじゃ終わらせねえぜ…!」
しかし致命的な凶毒を注入されてしまった以上、鈍麻の一途を辿る自分の意思によって錬装磁甲を駆動したところでエンジン全開の最強教軍超兵に及ぶべくもない、と判断したモラレスは、とにかく最低限のコンディションを回復するまで、以降の戦いを彼の全戦闘履歴を記憶した予備人工頭脳による〈自動戦闘モード〉に委ねることにした。
これにより当人にとっては不本意であろうが、ともすれば格闘戦に固執しがちな錬装者主体の従来の戦闘スタイルから、本来磁甲に装備された各種武器を適宜に織り交ぜた勝利への最短距離をひた走る合理的なバトルが可能となるはずであった。
しかも“引き継ぎ”は一瞬にして行われ、死の脅威に曝された錬装者は〔緊急救命機構〕の発動によって全生体組織を管理下に置かれた結果、その意識は送り込まれた麻酔ガスによって暗黒に閉ざされることとなり、彼の命運は全て天響神エグメドの啓示によって創造されたとされる錬装磁甲それ自体の行動に託されることとなったのである…。
「ふふふ、それでいい。
オレが戦いたいのは劣弱な地上人の稚拙な戦闘意識に使役される鉄の塊などではなく、あくまでエグメドの意思が具現化された“生ける超兵器”なのだからな…。
さあ髑髏の戦鬼よ、今こそ糜爛した死肉の桎梏から解き放たれ、本来の姿である地獄の使者へと戻ってこのザディフに向かってくるがいいッ!!」
──されど磁甲が取った最初のアクションは闇雲な突進などではなく、両腕を交差させて脇腹の肋骨を握りしめることであった。
人間のそれとは4本少ない左右10本ずつのそれは決して意匠上の問題で存在している訳ではなく、1本ずつが恐るべき切れ味のブーメランなのである。
さて、神速で投げ放たれた偃月型の死の刃はあたかも乱舞する双龍のごとき複雑な軌道を描いて紫の魔物に襲いかかるが、硬度で上回る敵の毒爪によってあえなく弾き飛ばされてしまった。
しかしながら、磁甲によって遠隔操作されているとおぼしき2枚の飛刃は墜落するどころか勢いを減じることもなく宙を駆け上り、くるくると交差しながら再び標的の頭上から襲いかかる。
しかもその間にさらに6枚の肋骨ブーメランが投じられ、ザディフは前後左右と斜め上方からも斬撃の脅威に曝されることとなったが次の刹那、
ギヂヂヂヂヂヂッ!!
という鋭い金属音が響き渡り、憎き龍坊主を斬り刻まんと襲来した8枚の鋭刃は目標に達することなく、ことごとく電光石火の手刀と蹴りによって撃墜されて展望室の琥珀色の床板に転がった。
──そしてそれらは持ち主の指令によっては二度と舞い上がることはなかった。
何故ならば、その刃全体を龍坊主の全身から発射された紫色の鱗に覆われていたからだ。
しかしその時、髑髏の戦鬼の機体は巨大な砲弾となってザディフに襲いかかっていた!
両手に光っているのは、直立させて70センチの小剣と化した最後の2枚である。
「バカめツッ!!!」
呼応して地を蹴った紫の魔物は、右の飛び蹴りを見舞わんとするが、そこで磁甲は再度、超酸弾を放つ。
されど同じ手は二度通じず、超スピードで動いた足裏が“死神のゲロ”を四散させ、鋼の髑髏面はそのまま強烈な蹴りの直撃を受けてしまう。
しかも負けじと渾身のパワーで叩きつけた双刃は、あろうことか紫の魔物を抉るまさにその瞬間に真っ二つに両断されてしまっていた!
かくて無傷のまま軽やかに着地したザディフの周囲を、彼の鱗にまとわり付かれたままの8枚の偃月刃がゆるやかに旋回する。
「不用意に飛び道具を放つべきではないということがこれで分かったであろう…。
しかもオレが自在に操る〔紫宝鱗〕の加速力を得ることで、これらの刃器の斬れ味は数倍にアップしたようてあるな…。
──さあどうする錬装磁甲よ?
もはや愚かな錬装者の支配下にはないおまえは理解しておることだろうが、“神牙教軍最強戦士”たるこのザディフに小細工は通用せん…となると残された手段は逃亡か内部で喪神しておるモラレスを道連れにしての自爆のみであろう…。
──さて優秀なる人工頭脳よ…偉大なる
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