第5話 最強の敵、いきなり登場!
「
臨戦態勢のスペンサーの問いに、歴戦の古強者たるベテラン教率者も打って変わった真剣な表情となって応じる。
「実はな…序盤こそ連中の常套手段ともいえる刃獣を用いての都市破壊が遂行されたものの、暴れた頭数は先例に比して圧倒的に少数であり、我が教界の防衛機構の奮戦もあって人的及び物的被害は最小限に留めた上で撃退に成功することができた。
従って、頼もしき共闘者たる貴君らへの“絆獣出撃要請“も最小限に抑えることが可能であった訳なのだが…」
「……」
ここで杯に残った美酒を一気に干したナラス=ハヌドは、最強錬装者の俳優かと見紛う端正な容貌に半ば讃嘆の眼差しを向けつつ苦衷を明かした。
「刃獣の代わりにというべきか、これまでとは比較にならぬほど【教軍超兵】が増派されているようなのだ…!」
「なるほど…ということは、敵の狙いは的を絞りに絞った要人暗殺をはじめとする破壊工作…!
──だが、その先に一体何を企んでいるのか…?」
頷いたナラスだがそれ以上はこの件には触れず、晩餐会が終了した時点でスペンサーだけを残しての会談の続行を望んだのだが、CBK総帥の“那崎恭作にも対等の資格あり”との申し出で星拳鬼會リーダーも同席を許された。
「先程の、今回の侵攻における敵の目的についてだが…貴君が述べた“暗殺”も当然のごとく発生はしておるものの、それ以上に頻発しているのが教界の未来を担う優秀なる新世代の旗手たちを狙った“拉致“なのだ…!」
こう語る教率者の深刻な表情は二人の錬装者が思わず顔を見合わせたほどであったが、この異常事態はいかなる理由でか遠征隊には事前に報されることはなかったのである…。
「いや、申し訳ない…。
だが、我が兜典領にとってもあまりに不名誉且つ脅威的なこの件については貴君の到着を待って私自身の口から申し述べようと決めておったのだ…。
尤もそれは、この忌まわしき作戦の先頭に立っておるのがあの“龍坊主”ザディフであるのが明らかになったからでもあるが…」
「!!」
ザディフ…この〈忌み名〉は全錬装者にとって特別な意味を持っていた。
そもそも龍坊主とは神牙教軍にあって海洋をはじめとした水中を主戦場とする、全身を堅牢な鱗の鎧で覆い尽くし、碧色の異様なまでに勁い光を放つアーモンド型の凶眼を持つ格闘特化型の教軍超兵の総称であるが、
その抗争の歴史は長く、聖団が教界防衛ミッションを遂行する度にほぼ例外なく一進一退の攻防が繰り返されてきたが、常に最終的な勝利を収めてきたのは錬装者たちであった。
だが、“
中でも最大のエポックとなったのが、スペンサーに匹敵する実力者とされ、率いる軍団もCBKに次ぐ陣容の【鉄槌士隊】のボスであったスペイン人錬装者で“髑髏戦鬼”の異名を持つアティーリョ=モラレスを再起不能に追いやった“海洋教界”ルドストン凱鱗領における〈ダグナ大灯台の決闘〉であろう。
神牙教軍首領が枢覇界として獲得を狙い、史上最大規模といえるほどの物量戦を仕掛けた【第二次ルドストン総侵攻】こそ百戦錬磨の老教率者と聖団最精鋭によって凌ぎきったものの、世嗣なき彼の指名を受けて跡を継いだ女優上がりのルターナの文化事業偏重の煽りを受けて該教界は一気に衰退に向かい、内部の反動勢力と強固に癒着した教軍による
そして妖艶なる教率者と事実上の愛人関係にあり、年の半ば以上を配下の者ともどもほぼ凱鱗領に常駐して彼女の護衛に当たっていたモラレスに、公然と挑戦状を叩きつけてきたのがザディフなのであった。
しかも手の込んだことにルターナ最側近の女官3名が人質に取られ、凱鱗領最大の港を擁するレシャ湾の航海の守り神ともいえる全長180メートルのダグナ大灯台…その最上階に設えられた一般客向けの〈展望室〉が舞台に指定されたのであった。
かくて半ば伝説化した〈第二次戦〉において、いわば挑戦者の先輩ともいうべき強豪龍坊主を撃破した経験を有する、不穏なガンメタに彩色された魁夷な髑髏の意匠の錬装磁甲をまとった屈指の実力者は、妖気漂う紫の鱗を底光りさせる怪異な姿形の対戦者が宣言通り人質を解放するのを待って襲いかかったのであったが…。
聖団屈指のファイター同士、“永遠の好敵手”として闘志満々で競り合いつつも、単独で制するのが困難な敵勢に対しては常に共闘することで撃破してきた“無二の
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