第2話 若き教率者、浄めの水浴
萩邑りさらを失神に追いやった頸部の触手がゼド=メギンに命じられてするりと抜けた後、青い部屋の自動扉が左右に開いて華麗な装飾が施された金色のストレッチャーが滑り込んできた。
自走能力を備えたそれは、未だ空中に抱え上げられたままのりさらの真下に停止する。
「よし、降ろせ…くれぐれも慎重にな」
教率者の声と同時に触手怪物は捕らえていた豪奢な獲物を慇懃に金色のビロード状のクッションに横たえる。
こうして任務を終えた15本の奇怪な赤い触手は、あたかも鞭が巻き取られてゆくように先端の20センチあまりを残して円筒形の胴体に収納された。
「ヴァーガ、ご苦労」
愛情を込めて?頭部を一撫でした主人に応えるかのように怪物は不気味な“ヴァロロロロ…”という鳴き声を発し、底部に生えた数千本もの腕足を蠕動させてずるずると移動し、ストレッチャーが開いたドアから退出していった。
「リサラ、許してくれ…。
だが、こうするしかなかったのだ…」
…そしてゼドが貌を上げ、開いたままの自動扉に向かって歩み始めると同時にストレッチャーも緩やかに走り始め、殺風景な【懲罰室】は闇に閉ざされるのであった。
幅約5メートルの長く白い廊下を40メートルほど進んだ後、教率者は青い扉の前で立ち止まり、萩邑りさらを乗せたストレッチャーもその背後で停止する。
「…それではリサラよ、清らかな〔霊純水〕によってその美しい肉体を洗い浄めるとしようか…」
その空間は忌まわしい懲罰室とほぼ同じ大きさであったが、趣きは全く異なっていた。
室内のほぼ半分は中央部に設えられた円形の〈水槽〉であり、地上のものより豊かな光沢を放つ、あたかも水晶が液状化したかのようなラージャーラの清水がなみなみと湛えられている。
槽の深さは1メートルほどで、霊純水は常に循環しているとみえ、水面は微かに波打ち、槽の側面からは絶えず細かな気泡が発生していた。
「……」
ここで若き教率者はおもむろにクリーム色のローブをはだけたのだが、何と彼はその内側に続いて脱ぎ捨てた踝まで覆う白銀色の
180センチは優に超える、一片の贅肉もない青年神の彫刻のごとき見事な肉体は戦士のようないかめしい筋肉に鎧われているわけではないが、それが却って高貴な色気を醸し出し、並ぶ者なき美貌と相俟って全男性教率者中一、二を争う美の具現者と讃えられるのも当然といえよう…。
──そして、誇り高く天を仰ぐ、肉の色以外は地上人といささかも異ならぬ股間の男性器…。
「我が妻よ、ようやく二人きりになれたね…!」
瞑目し物言わぬ最愛の存在に呼び掛けつつ、軽々とりさらを抱き上げたゼド=メギンは、自らの手によって彼女を清めるべく、聖なる水槽に下るための小さな白い石段に足を乗せた…。
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