全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのような恋♡

三愛紫月

中庭

学校の中庭に既婚者である中目黒壮大なかめぐろそうだい先生が立っている。

私は、一人。

二階の廊下から、先生を眺めるのが好き。


恵梨香えりか、おはよう」

「おはよう、結子ゆうこ

「また、なかめちゃん見てるの?」

「うん。やっぱり、綺麗だよね」

「確かにね。世の中の誰もが羨む顔してるもんね」

「あっ、来た来た」

「本当だ」


朝8時になるとやってくる中目黒ファン。

真っ黒な髪を頭の上でツインテールにしている集団は、まるでバッファローだ。


「いやーー、やっぱりバッファローだね」

「確かに。くぬぎ君の言う通りだよ」


同じクラスの椚義人くぬぎよしとは、先月中目黒ファンを見てポツリと呟いた。


「全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのようだ」と……。

気になった結子と私は、昼休みにスマホで検索した。

確かにバッファローは、全てを破壊して進んでいた。

そして、リーダーについて走って行く。

もちろん、中目黒ファンのリーダーは、吉野桜よしのさくら

大きな巨体を揺らしながら、50人程の女子生徒を連れている。


「せんせーーい」


吉野さんの甘ったるいダミ声が響いたかと思えば、中目黒先生はいなくなってしまう。


「消えた?」

「まさか、消えるわけないでしょ?あの真ん中でしょ?いつものように」

「あーーあ。でも、中目黒先生がいつか破壊されてしまいそうで怖いんだよね。身長は、高いけど。先生華奢だから」

「それは、わかる。バッファローにやられそうだよね!角で投げられちゃいそう」

「怖い事言わないでよ」


結子と話してると椚君がやってきた。


「相変わらず今日もバッファローの群れに囲まれてるね」

「あの集団、ヤバイんでしょ?」

「恋は、盲目ですからね。一昨日、萩原真由美はぎはらまゆみ先生の自転車が破壊されたみたいです。目撃者によれば、バッファロー集団じゃないかって話ですよ」

「まじで言ってんの!とうとう、本当に破壊してきたか」

「じゃあ、中目黒先生もやっぱり破壊されるんじゃないの」

「まさか!それは、大丈夫でしょ」


キーンコーンカーンコーン


「先生、また明日ね」


バッファローの群れは、中目黒先生から離れて行く。

よかった。

中目黒先生は、破壊されてなかった。


中目黒先生は、体をゆっくりと起こして私と結子と椚君を見つめる。


「そこの三人。早く教室に入りなさい。授業が始まるぞ!」


初めて先生に声をかけられた。


「さっさと入った方がいい。奴らがくる」


椚君は、慌てて教室に入る。


「ほら、行くよ。恵梨香」


結子に腕を引かれても、中目黒先生から目を離せない。


「早くしなきゃ!」

「あっ、うん」


あの群れのリーダーは、もしかして中目黒先生?


ドッドッドッドッ……。

ドッドッドッドッ……。


私の心臓の音か、奴らの足音かわからないぐらいの音が近づいてきた。

吉野桜率いる50人は、教室の机を破壊しながら私と結子に近づいてきた。


「な、何?」

「おはよう。あんた達も入りたかったんでしょ?大歓迎よ」


むっちりした手にぎゅうぎゅうと握りしめられる。

私と結子は、バッファローの群れに捕まってしまった。


「あ、ありがとう」

「よ、よろしくね」

「明日から、ツインテールにしてきな!」


ガンガンと音を立てながら、吉野桜率いるメンバーはいなくなる。

私と結子は、顔を見合わせた。

入るしかない。

入るしかないよね。

私達は、アイコンタクトで頷く。

だって、破壊されたくないもの。

目の前の机や椅子を見つめながら、私と結子は震えていた。


「おはようございます。今日は、魚住うおずみ先生が休みなので私がホームルームを担当します。皆さん、机と椅子を元に戻して着席して下さいね」


中目黒先生が笑いながら私と結子を見つめる。


【ようこそ】

と口が動いた気がした。

やっぱり、バッファローの群れのリーダーは中目黒先生なのかも知れない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

全てを破壊しながら突き進むバッファローの群れのような恋♡ 三愛紫月 @shizuki-r

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ