番外編 家族でのひととき



 私とチルチルはそれはもう仲睦まじい夫婦になりました。


 なのであっという間にチルチル念願の子供ができて、既に4人います。

 5歳の長女に、3歳の双子の長男と二男、あとは私のお腹の中にいる赤ちゃんです。


「可愛い。目に入れても痛くない。可愛い。ほら可愛い」

「もう、毎日言ってるわ」

「毎日言っても言い足りない。はー可愛い……」

「お父さま、くるしいからやだ」


 チルチルは子煩悩で、毎日子ども達を捕まえてはぎゅうぎゅう抱きしめるので、子ども達に嫌がられているのです。

 しょんぼりしているチルチルを慰めるのは、妻の仕事です。

 こんなふうに過ごすことができて、毎日幸せでいっぱいです。


「お母しゃま! わたくしアクヤクレイジョウなのー!」


 ちょっと心配なのは、最近長女のイライザが、流行りの幼児病にかかったことでしょうか。


 ナイトリー王国で流行っている病で、幼児の時に、「ニホンからきたテンセイシャなのー」「アクヤクレイジョウだからハメツするのよー!」と言い出す病なのです。大人になってから話題に出すと、全員顔を赤くしてベッドの上で転げ回ることから、転がり病とも言われています。


「ニホンのね、ジョシコーセだったの!」

「そう、イリーは凄いのねぇ」

「アクヤクレイジョウだから、オウジサマにコンヤクハキしゃれちゃうの! お母さま、わたくしオウジサマとコンヤクしたくない!」

「そうねー、王子様は嫌よねぇ。お母様も本当に嫌だったから、婚約の話はきているけれども断っちゃいましょうねー」


 お腹を撫でながらふわふわと答えていると、舌ったらずな口調で必死に喋っていた長女が、宇宙を見たような顔をして固まっています。


「お母しゃまもオウジサマとコンニャクしてたの?」

「婚約ね。そうねえ、一人は婚約していたし、もう一人は婚約者候補だったわね。卒業パーティーで婚約破棄を突きつけられたり、大変だったわねぇ」

「ふぁっ!?」


 懐かしい話に、あの頃の自分の余裕のなさを思い出して、私はふふっと微笑みます。


「お、お母しゃま! その話、もうちょっと詳しく」

「ふふ、イリーが大人になったらね〜」

「お母しゃまぁ!?」


 青い髪に水色の瞳のお人形みたいな長女は、私の周りを必死に跳ねて、話の続きを催促しています。

 そんな可愛い彼女も、きっと大人になったらベッドの上を転がり回るのでしょうね。


「どうしたの、キャロル」

「チルチル。いえ、懐かしい話をしていたのよ」

「うん? ミチル爺ちゃんのこととか?」

「惜しい、ちょっと違うのよねー」


 チルチルは、「チルチルとミチル……?」「青い……え? え?」と呟く長女をひょいと抱き上げて高い高いします。


 きゃっきゃと喜ぶ長女は、もう先ほどまでの話は忘れたのか、「おやつがあるんだぞー、パパのお手製だ!」というチルチルに促されて、目を輝かせながら庭のカフェテーブルに向かって行きました。テーブルでは、二男のトビーが待っているようです。


 そんな三人を眺めていると、後ろから可愛いお手手に手を引かれました。

 長男のトムです。


「お母ちゃま、お母ちゃま」

「どうしたの、トム」

「ぼくもね、テンセイシャなの。ニホンのダンシコーセで、今はチートでせかいを救うユウシャなんだ!」

「そうなの、楽しいわねぇ」

「ぼくはシンケンなんだ!」

「そうね、そうよねぇ。大変なことよねぇ」


 そういえばこの間、二男のトビーもそんなことを言っていましたね。

 確か、「ニホンのショクブンカをユニュウするんだ!」と言いながら、なぜか卵を必死にかき混ぜていましたが、3歳児の力で攪拌し続けることができる訳もなく、腕が痛いとわんわん泣いていました。可愛いわぁ。


「すごいのね。お母様がちゃんとトムを支えるから、頑張って世界を救ってね」

「うん! お母ちゃまをヒロインにしてあげる! 大きくなったらお母ちゃまとケッコンするんだ!」

「あらあら、ありがとう」


 可愛いことを言う長男の手を弾きながら、私もカフェテーブルに向かいます。


 そうして、私達は家族で、賑やかなおやつタイムを楽しんだのです。


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親にも妹にも婚約者にも夫にも恵まれなかった私ですが、公爵家令息に溺愛されて幸せになるようですよ? 黒猫かりん@「訳あり伯爵様」コミカライズ @kuroneko-rinrin

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