「来客」— episode 10 —

「荷物をまとめておきなさい」

 早苗はそう言って立ち上がった。

「……引っ越すの?」

「そうよ」

「どうして……」

「どうしてって……あなたわからないの!?もう少しで同級生の…人の命を奪うところだったのよ!それも恐ろしい力をつかって。それも皆の見てる目の前で……」

「 ……… 。」

 何も言えなかった。

「一度しか言わないからよく聞きなさい。この力に関しては、生理の対処法を教えるのとはわけが違うの」

 玄関が開く音がした。英二さんが帰ってきたようだ。

「自分で探り、自分でみつけ、自分のモノにしていくしかないの。私たち姉妹も幼い頃から、ずっとそうやって生きてきたの」

 私は、ただ黙って頷いた。

「この続きは英二さんと話をしてから。頭痛と吐き気は力の反動よ。今薬持ってくるから、そのまま寝なさい」

 そう言って部屋から出ていった。

 軽い夕食を食べ、薬を飲んで横になった。

 全身の力が抜けた。仰向けに倒れ、天井を見つめる。

 —— どうしてこんなことになってしまったんだろう…… 。

 いったい悪いのは誰なのか。なにがいけなかったのか。まるで化け物に遭遇したかのような、クラスメートの目。私の顔を見て、恐怖におののくマミちゃんの目 —— 。

 もうこの土地にはいられない。二度と戻ってこれない。自分でもわかっている。

 涙が溢れてくる。耳の横をつたっていく。とめどもなく。

 —— どうしてこんなことに……。どうして……どうして…… 。

 薬が効いてきたのか。次第に意識が薄れ、深い闇の中へと落ちていった。

      ・       ・

 翌夕方、チャイムの音で目を覚ました。

 誰かが階段を上がってくる。ノックの音 —— 。

「……起きてるよ」

「昨日言ってた、高山さんがみえられたわよ」

 —— 高山さんが …… 。

「どうするの?」

「上がって待っててもらって……着替えるから」

 そう言うと早苗は黙っておりていった。

 おそるおそるリビングに入る。テレビの前のソファ。早苗と高山さんが向かい合って座っている。話しながら紅茶を飲んでいた。

「あんたも飲む?」

 頷くと早苗はキッチンへと向かう。私はフラフラと高山さんの隣に座った。

「大丈夫?体調良くないって聞いて。ごめんね、こんなときに」

「ううん。今日一日横になってて、だいぶ楽になったから」

「そう。なら良かった。おもったより元気そうで安心した」

 そう言って私の顔を覗き込んだ。

「あの、昨日は……」

「ん?」

「警察の人に上手く話してくれて……ありがとう」

「ああ、あれね。我ながら上手く言ったとおもったわ」

 高山さんは不適な笑みを浮かべた。かとおもうと私を見てまた微笑み、紅茶をひと口飲んだ。その一つ一つの仕草が、すごく大人びて見えた。

 早苗がカップを私の前に置いた。

「昨日、この子から聞きました。本当に、有難うございました」

 そう言って、早苗は深々と頭を下げた。

 なぜ大人はみな彼女に対し、同じ大人に対するような接し方になるのか。少しぼーっとした頭で、そんなことをおもった。

「睦月さんの不思議な力のこと……。お母様はご存知なんですね」

 私はおもわずビクッとしてしまった。早苗は落ち着いていた。

「ええ、知ってます。私もそうですから。だけど睦月はまだ、その力をうまく制御できないんです。私も……この年くらいの時はそうでした」

 私は驚いて早苗を見た。初めて聞いた。

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