「母の尋問」— episode 9 —

「……あの、よろしいでしょうか」

 高山さんのその声に、皆我に返った。

「え?ああ…有難うごさいました」

 若い刑事が慌てた様子で言った。

「とても参考になりました。それでは先生、これで失礼します」

 年配の刑事がそう言い、教室を出ていった。

「気付かなくてごめんなさい」

 担任が泣きながら皆に対し、何度も謝っている。とんだ茶番。呆れてあいた口が塞がらない。

 緊急連絡網 —— クラスの保護者達が体育館に集まり、教頭から説明を受けていた。それが終わると皆、親達と帰宅の途についた。

 帰り際、高山さんと目があった。私はおもわず、目を逸らしてしまった。

       ・      ・

 家に着くとベッドに横たわった。

 早苗の話だと明日から二日間、休校になるということだった。

 マミちゃんの母親から電話があったらしく、頭の怪我はたいしたことないらしかった。ただ詳しいことを聞いても黙り込んで、一切何も言わないという。

「いったい、なにがあったの?」

 帰ってきてから身体がだるい。頭痛と吐き気 —— 。母の質問に、なにも答えられなかった。

「黙ってたってわからないじゃないの。話しなさい。マミちゃんのお母さんから、泣いて電話かかってきたのよ」

 —— マミちゃん……泣いていた。 

 私の顔を見て、恐怖に引き攣っていた。

 歪んだ口元。血の色に赤く光った……私の目を見て。

 睦月は枕に顔を埋めたまま、勉強机の上に置いた体操袋を指差した。早苗は立ち上がり、それを手にとった。睦月は横目で見た。体操袋を持った手が、微かに震えている。そして震える声で、早苗は言った。

「あなた……魔導をつかったわね……」

 これまで聞いたことのない、恐ろしい声だった。

      ・       ・

 私は淡々と、今日の高山さんのように話した。

 必死に抑えつけていた魔導が発動してしまったこと。どうすることもできなかったこと。包み隠さず話した。この人に嘘は、一切通用しない。

 早苗は最後まで黙って聞いていた。

「ちょっと待ってて。マミちゃんのお母さんに電話してくるから」

 そう言って部屋から出ていった。

 耳を澄ます。早苗が「心配ないから」「少しすれば落ち着くから」と言っている。また二階へと上がってくる。

「今、マミちゃんのお母さんに聞いたわ。大浦さん、幸い命に別条はなかったって。ただ、両腕両足を骨折してて……今後どうなるかはわからないって」

 —— 両腕、両足……骨折。

「大浦さんのご両親が、娘がイジメにあってて飛び降りたんだとかいって…学校に乗り込んできてるみたいだけど」

 そう言って早苗は私の横に座った。

「皆に、見られたのね…」

 睦月は枕に顔を埋めたまま頷いた。

「警察はなんて?」

 睦月はゆっくりと身体を起こした。

「同じクラスの高山さんが、皆の前で警察の人に上手く説明してくれた。私のことが、バレないように……」

 早苗はその言葉に、大きく安堵の息を漏らした。

「マミちゃんにも…見られたのね」

 その言葉に、涙が一粒こぼれ落ちた。とめどもなく溢れてくる。

 早苗はまた大きな溜息をつき、しばし黙った。

 そして言った。

「荷物をまとめておきなさい」

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