「救いの手」— episode 8 —
救急車。警察 —— 。
一時騒然となった。
マミちゃんは保健室へと連れていかれた。
自分たちのクラス以外は、すぐさまホームルームとなり帰宅。私たちは担任の指示のもと、各自の席で無言で座っていた。
皆、顔が蒼ざめている。
私はまだ胸が騒ついていた。抑えつけるのに必死だった。若い刑事がやってきて、廊下で担任と話し始める。すぐに教室に入ってくる。
年配の刑事が遅れてやってきた。
「すぐ終わらせますんで、話だけ聞かせてください」
若い刑事が言う。
「誰か…何があったのか、正直に事情を説明できる人はいる?」
俯いている皆に対して、担任の女が言った。イジメがあると知っていながら、何もできない無能な教師。私が嫌いな大人。皆黙っている。
無理にきまっている。説明のしようがない。ありのまま説明したところで、何かを隠してるとしか思われない。というか、信じるわけがない。
“ 私がやりました ”
そう口にしようとしたその時 —— 。
一人の女子が静かに言った。
「あの、私でよければ……」
—— 高山さんだ…… 。
「あなた…ずっと見てたの?」
「先生もご存知のとおり。私は今日、体育を見学してました。ですから誰よりも先に、ここに戻ってきてます。私が一番正確にお話しできるとおもうのですが……」
「キミ…名前は?」
若い刑事が驚いたような顔で言った。
「高山、といいます」
「高山さん。お話を、聞かせて頂けますか?」
それから彼女は、ことの顛末を話しだした。
しかし皆が目撃した不可思議な現象については、一切触れなかった。窓が突如揺れだしたこと。私の様子が突然おかしくなったこと。
その私が口にした、恐ろしい言葉も。なに一つ、彼女は触れなかった。そして自分の見解も、一切差し挟まなかった。第三者として、ただ見たことだけを淡々と語ったというような話し方。
説明が終わる。二人の刑事の、高山さんを見る目つきが変わった。
「すると…。掴み合いの末、吉田さんが倒れて出血し……大浦さんに対する皆の冷たい視線と、しでかした事の重大さに耐えられなくなって、自ら飛び降りたと……」
若い刑事が言った。
「それは大浦さん本人に、直接訊かれたほうがよろしいかと……」
高山さんがそう言うと、それまで黙っていた年配の刑事が口を開いた。
「私からもひとつ……お聞かせ願えますか?」
高山さんは黙って頷いた。
「今回の件について、あなたはどう思われますか?参考までにお聞かせ願えると有難いのですが……。無理にとは言いません」
その言葉遣い。小学四年の子供に対する話し方とは、とてもおもえない。
高山さんは先程同様、座ったまま落ち着いた声で話しだした。
「私は去年の暮れに転入してきたばかりで、まだ日も浅く……この学年の人間関係やしがらみに関しては、全く存じ上げません」
担任が余計なことは言わないでくれ、という顔をしている。
「しかしながら。今日までこのクラスを少し離れたところから見ていた、私の口から申し上げますと……」
二人の刑事も真剣な眼差しで、黙って耳を傾けている。
「大浦さんがこれまで皆に対して行ってきた、イジメや嫌がらせの数々。されても何も言えない当事者たち。次に自分が標的になることを恐れ、見て見ぬふりをきめこむ薄っぺらい友人関係……」
ほんの少し間があいた。皆固唾を飲んで聞いている。担任も。二人の刑事も。私も。
「厳しいことを言わせて頂きますと……。このクラスの現状を把握しきれていなかった担任含め、傍観していた私も然り。このクラスの誰しもが、此度の騒動に至った加害者であり、被害者だというのが私の見解ですが…… 」
皆、固まっていた。
年配の刑事が黙ったまま、何度も頷いていた。
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