「素敵な出会い」—episode 4 —

「いきなりごめんなさい。でも本当にびっくりしちゃって。もしかして…身内の方に?」

 彼女の表情は不安げなものから、柔らかなものに変わっていた。いつのまにか私は少女と手を繋いでいた。

「いえ。実は、最近覚えたばかりで……」

「え、そうなの?ここ1年くらい?」

「まだ一月くらいで…。ちゃんと伝わるか不安だったんですけど」

「しんじられない……」

 さっき以上の驚きの表情とその言い方に、私は吹き出してしまった。それを見て彼女も笑い出した。

「だって本当に信じられないんだもの」

 二人で大笑いしていると、少女がどうしたの?と訊いてきた。

 “ ママ、おもしろいね ”

 手話でそう答えた。少女は微笑みながら何度も頷く。

 “ ママ、お友だちができてよかったね ”

 “本当ね。ミクのおかげよ ”

 少女がまた嬉しそうに微笑む。

「ミクちゃんていうんだ。どうゆう字を書くんですか?」

「そういえば自己紹介がまだだったわね。ごめんなさい。もうすっかり嬉しくなっちゃって」

 彼女はペンとメモ帳を出しながら言う。

「この子はミク。未来って書くの。私はユミ。塚崎由美」

 そう言って、住所と電話番号が書かれた紙をくれた。女性らしい、丁寧で可愛らしい文字だった。

「もしよかったら今度遊びに来て。こっちに引越してきたばかりで、右も左もわからなくて…。実はすごく不安だったの」

 先程の不安そうな理由がわかった。

「こんなに上手に手話ができる人、なかなかいないでしょう?だから本当に嬉しくって。この子も喜ぶし、ね?」

 由美がそう言ってミクに同意を求めると、手話で話していないのにウンウンと何度も頷く。それがおかしくて、私たちはまた大笑いした。

「それじゃあ、近いうちおじゃましちゃおうかな。また連絡します」

ミクがポンポンと私の肩をたたく。

 “ なに? ”

 “お姉ちゃんは…名前…なんていうの? ”

 由美がペンとメモ帳を渡してくれた。

 “私は睦月。かいげむつきって読むの。よろしくね、ミクちゃん ”

 手話でそう言うと、ミクは満面の笑みで頷いた。 

 また会う約束をして、二人は二つ目の駅で降りていった。二人は見えなくなるまで、手を振ってくれていた。

 不思議な感覚だった。

 自分がこんなにスムーズに手話を使えたこともそうだが、それよりもなによりも。全く耳が聴こえない相手と、何の違和感もなく会話ができた。それだった。

 —— 手話。おそるべし…… 。

 それにあんな素敵な二人と出会えた。偶然とはおもえない、なにか不思議なものを感じていた。

 それはけして、魔導なんかではなかった。

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