エンディング

メープル

エンディング

 周りから隔絶された白い病室。

 暖かい日は冷たく。

 冷たい日は暖かく。

 この部屋だけ季節がないような、年中変わらない温度が保たれています。

 変わっていくのは窓から覗ける風景。

 私はちょっとだけ、外の世界と交わりたくて換気をしようと窓を開けてみたら、淀んだ白い外敵が入り込みました。

 そのとき、不自由な体に今が冬なんだと実感させてくれたのです。

 私の12月は風邪から始まりました。



 病弱だった体はついに余命僅かの宣告をされてしまいました。

 だけど今さら病気を患ったって、あまり関係ないよね。

 それでもあなたは心配してくれました。

 火照った体には薬品よりも丁度いい薬になります。

 動けない私には、窓から見る風景が唯一の趣味。

 雪玉つくってはしゃぐ子供たち。転んで打ち付けた膝をなんでもない様に振舞ってまた遊ぶ。

 私にもあの頃があったかなと過去を振り返りましたが。


 ――いつも部屋の中か病室。


 外の世界は私には眩しすぎる。その世界が私を拒む。いや、もしかしたら拒んでいるのは私なのかもしれません。

 だから、私にはこの閉ざされた部屋で過ごすしかなかった。この狭すぎる世界が私に似合っている。

 でも、あなたがいたから寂しくはありませんでした。

 けど、今は病室に一人きり。



 風邪が過ぎ去れば、楽しみはもうすぐやってきます。

 それはクリスマスとお正月。

 こんな身体になってしまっても、この時期だけは不思議と心が躍りました。

 プレゼントはどうしようかな? と思案する毎日がちょっぴり楽しい。

 もう大人になったんだし、少しばかりの背伸びがしてみたい。

 お金は感謝に換金。

 エンディングはもう少し。



 徐々に増していく咳き込み。

 神様は私に試練を言い渡します。

 死がやってこようとしているらしいです。

 今更ですが、生きていたいと渇望しました。

 こんなことなら窓を開けるんじゃなかったな。

 後から悔やむから後悔。

 ついにその時はやってくる。



 投与された新薬は数知れず。

 被験者として受け入れるも、あなたは心配してくれた。

 けどね、「私から医療は進歩するんだよ」と言ったわがまま。

 それでも、薬浸けになった私の身体は、その全てを弾いてしまいます。

 だから、私は生涯を通して作った想い出アルバムを開くのです。

 この体とも長い付き合いで、いまではすっかり私の立派な個性。

 何万分の、あるいは何十万分の一かの確率で貰える個性。

 そのおかげで誰よりもあなたと過ごす時間が多く取れたよ。

 そう思えば、この体も悪くはないね。

 

 ついに迎える 棺の中で眠るクリスマス。


 だけど、不思議とこんなにも満たされた気持ち。 


 だから最後は「さよなら」ではなく。


 「ありがとう」で締めくくるエンディング――

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