ヒッチハイカーは全てを破壊して突き進むバッファローの群れに轢かれたようだ。
ろくろわ
今さら俺が転生の主人公になるなんて誰が決めたんだよ。
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
何故そんな状況になっているのか。それには自分でもびっくりする程の浅い理由があった。
日本からヒッチハイクで自分探しの旅で自分を見失っていた
まさかヒッチハイクで飛行機が止まるとは思っても見なかったが。長旅も目的地に着き、見た腕時計は十時三分を指していた。
岡原は目の前に広がる壮大な景色に、自分の中の何かが変われそうな気がしたまさにその時だった。
「危ない!避けて~」
「えっ!?」
気がついた時には岡原の身体は宙に浮き、勢い良く地面に叩きつけられると無数の脚に踏み潰されていった。薄れ行く行きの中分かったことは、岡原を轢いたのが、どうやら全てを破壊して突き進むバッファローの群れのようだ。
◆
俺が目を覚ますとそこは暗い神殿の中のようだった。確かバッファローの群れに轢かれたようなと記憶を遡り「あぁ俺死んだんだ。この場所ってもしかして転生系?」とか思っていると全身に走る痛みに思わず叫んだ。
「痛って~、ちょっマジで痛い」
俺は痛みに転げ回りながら全身を確認した。
「ちくしょう。身体に傷はなく、綺麗なのに痛みは残るパターンか」
どうやらちょっとハズレの転生系なのかもしれない。
システマによる呼吸で何とか痛みを落ち着かせ、ようやく周囲を見回すと神殿の奥に立っている人影を見つけた。
「あれが神か」
思わず口にしてしまった。俺は足を引きずり数メートル先の人影の元に近づいた。
…めっちゃ遠い。この怪我に数メートルは遠い。
たっぷり時間を使いようやく見つけた神は見たことない異国の装いをした女神だった。
女神は俺に指を向けパチンと鳴らすと全身の痛みが引いた。
(コイツ、わざと神の力を見せるために痛みだけ残したな)
俺は神の演出に腹が立ったがまあ良い。ここから俺の無双物語が始まる。俺は女神の一言を待った。
「チピチピ・チャパチャパ・プチュプチュ・チャパチャパ・プチュプチュチャパチャパ・ドゥドゥドゥ」
「あっ、終わった。こう言うのって主人公補正で共通言語じゃないのかよ」
女神の言葉は異国過ぎて何を言っているか全く分からなかった。
だけど俺は諦めない。日本人を舐めるなよ。俺は持ち前の日本人アイデンティティーをフルに活用し、愛想笑いとリアクションで女神の話に合わせた。女神は相変わらず良く分からない言葉で話し、最後に指を三つ立てた。
(キタコレ!所謂、願い事やスキル付与の話だな)
俺は落ち着いている風に装い大声で叫んだ。
「一つ!イメージを具現化する力(これは王道だな)」
「二つ!守りたいものを守れる力(これも王道だ)」
「三つ!モテモテになること!(これが一番だな)」
ドヤ顔で決める俺に女神はキョトンとしていたが、俺のOKサインをみて、準備が出来たと思ったらしく俺の身体に光が纏うと足元から消えていった。
さあ、俺の冒険が今始まる!
◆
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。「あれ?ここはもしかして」と思う間もなく声が聞こえる。時刻は十時。
「危ない!避けて~」
ちくしょう、異世界転生じゃないじゃないか。でも大丈夫だ。俺には三つのスキルがある!
「イメージする力。強固な壁!」
そして俺は全てを破壊して突き進むバッファローの群れに轢かれた。
「だいじょうぶですか?うわっぐちゃぐちゃだ」
そして周りの人に引かれた。そんな所で強固な心の壁はいらなかった。
◆
目が覚めた俺は暗い神殿の中にいた。痛む身体にシステマを馴染ませ、光のごとく神殿の奥へ進む。
「御前死メチャ速無?(笑)www」
相変わらず何を言っているのか分からないが、バカにされたことだけは分かる。
「こら!てめぇ、転生系お決まりの異世界じゃ無いじゃんか!しかも死ぬ三分前とか無理に決まってるだろ」
「\(^-^)/( ̄ー ̄)チョパチョパチン」
くっそ、相変わらずなに言ってるか分からん。取り敢えずまだまだ文句を言おうと一歩踏み出した時には女神は指を鳴らし俺の身体は光に包まれた。
◆
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
そんなことはどうでも良い。俺は声より先に振り返り向かってくる全てを破壊して突き進むバッファローの群れを確認した。そして叫ぶ。
「第二スキル!守りたいものを守る力。対象は俺の命」
「あっ、そこのバカ。危ない!避けて~」
何か余計な一言が増えたような気がしたが、残念ながら俺の記憶はこの前で途切れていた。
◆
目を覚ますより速く、俺は女神の元に向かった。最早無意識の執念だ。
意識の戻った俺が見たのは「もう来たの?」と言わんばかりの顔をした女神の姿だった。
そりゃそうでしょうね。現世に戻って三分後にはバッファローに轢かれてますから。何なのバッファローって。殺意高すぎんだけど。
待てよ?女神の三本の指はスキルを三つ授ける意味ではなくて、三分前に戻るって意味だったのか?
そんな俺の怒りを女神にぶつけようと女神を見ると、賑やかに手を振ってやがった。
「あっ!まっ」
俺の身体は光に包まれた。
◆
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
「バカ!危ない!避けて~」
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
「そこのバカ~危ない!避けて~」
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
「ばぁかー」
何度繰り返したか分からない程全てを破壊して突き進むバッファローの群れに轢かれた俺は遂に一つの結論に至った。
それはバッファローの群れを迎え撃つのではなく横に避けることだ。奴らは前に進むが横には来ないのだ。
えっ?そんな簡単なことに気付くのに何回も死んだのだって?それには一つだけ知っていて欲しい事がある。
普通の主人公は人生を繰り返す事で経験を積み、強くなっていく。
俺の場合はどうか?答えはNOだ。繰り返す時間が三分しかないのだ。十回繰り返しても三十分の経験にしかならないのだ。しかもその合間に女神の失笑と雑な扱いを受ける俺の事を想像して欲しい。
だがそれももう終わりだ!
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
バッファローの進路を読むと、俺は横に避ける。
「危ない!避けて~」
「はい喜んでぇ~」
俺はウハウハで目の前を通りすぎるバッファローの群れを見送った。これで三分以内のループから抜け出せる。
そう思っていた。
「危ない!避けて~」
再び聞こえた声とバッファローの群れに襲われそうな子供を見つけるまでは。俺は無意識にバッファローの最後尾に飛び込んでいた。
◆
目が覚めた俺は暗い神殿の中にいた。今までの事を纏めながらゆっくりと神殿の奥へ進む。
あのバッファローの群れを俺が避けると子供が轢かれてしまう。もしかしたら俺が知らないだけで俺が轢かれた後に子供も轢かれているのかもしれない。
助けるためには。
「女神よ。行ってくるよ」
初めて女神は微笑み俺の身体は光に包まれた。
◆
目を開けるとそこには見覚えのある壮大な景色が広がっていた。
俺は直ぐにバッファローの進行方向にいる子供の姿を確認する。速く向かわなければ間に合わない。俺は風になるイメージで駆け出した。するとどうだろう、身体が軽くあっという間に子供の元に辿り着いた。
「危ない!避けて~」
遅れて声が聞こえる。バッファローの群れが此方に向かってくる。避けきる時間はない。なら、俺は子供を抱き抱えると、せめてこの子だけでも守ろうと心に決めた。そして全てを破壊して突き進むバッファローの群れ全てを破壊して突き進むバッファローの群れが俺達にぶつかる瞬間、俺の身体は光に包まれそれを避けるようにバッファローは通りすぎていった。
これってスキルの力なのか。俺がそう思っていると子供を守った俺はたちまちモテモテになった。
ようやくループから抜け出せたことに俺は安心できる。この後も万事うまく行く筈だ。
そう思っていた。
俺には三分以内にやらなければならないことがあった。
アメリカ発日本行きの空港。
日本に帰るための保安検査場にて。パスポートや旅券を持たない俺はヒッチハイクでここまで来て、全てを破壊して突き進むバッファローの群れから子供を救った話を信じてもらわないといけない。
飛行機は三分後に離陸してしまう。
こんな話、誰が信じてくれようか?
保安官と言い合いをしている俺の耳に女神のバカにした笑い声が聞こえた気がした。
了
ヒッチハイカーは全てを破壊して突き進むバッファローの群れに轢かれたようだ。 ろくろわ @sakiyomiroku
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