第30話 正義?

翌朝、教室へ入ると

皆がボクに好奇の目を向けてきた。


「おはよう。

 ねえ・・聞いた?」

蘭子の表情にはやや緊張の色が見えた。

「おはよう、委員長。

 な、何かあったの?」

「日野が死んだみたい・・」

「えっ・・?」

蘭子の言葉をボクはすぐには理解できなかった。


日野正義が死んだ?


「ど、どういうこと?

 く、詳しく・・」


「ギーギー。ギーチョン」

その時、

チャイムが鳴って菊野夕貴が入ってきた。

ボクは混乱した頭のまま席に着いた。


「悲しいお知らせがあります」

開口一番、菊野はそう言った。

「・・昨夜。

 日野君が亡くなりました」

そして彼女は

まるで日常会話でもするかのように続けた。


教室は静まり返っていた。


ボクは続く言葉を待った。

しかし菊野はそれ以上の説明をしなかった。

「せ、先生!

 ひ、日野・・くんは

 ど、どうして死んだんですか?」

ボクは知らず知らずのうちに

椅子から立ち上がっていた。

菊野はボクの方をチラリと見た。

「・・自宅で亡くなったようです」

そして苦々しげな表情でそれだけ言うと

出席をとりはじめた。


「先生、日野は

 誰かに殺されたという噂があります。

 それは本当ですか?」

蘭子の言葉に菊野の顔色が変わった。

すぐに教室中がざわつき始めた。

「ひ、姫島さん。

 変な噂話に惑わされないで下さい」

「そのためにも。

 きちんと説明した方が良いと思います。

 政治家のように舌先三寸で誤魔化さずに」

蘭子の詭弁を他の生徒達が援護した。

この話題を避けて通れないと判断したのか、

菊野は大きく溜息を吐くとゆっくりと口を開いた。

「・・日野くんは自宅の部屋で、

 お酒を飲んでいて亡くなったそうです」

「それはアルコール中毒ということですか?」

蘭子がすかさず畳みかけた。

「部屋には開封された燃料用アルコールが

 あったようです」

「それはつまり。

 日野はメタノールによる中毒死、

 ということですか?」

蘭子の質問はとまらなかった。

菊野は困ったような表情を浮かべた。

「先生は化学には詳しくないので・・。

 ですが、警察は誤飲による事故だと

 考えているようです」

そして菊野は大きく息を吸った。

「はい。話はここまで。

 出席をとります」


教室はまだ少しだけざわついていた。


その時、

ボクの視線が浅井秀一の姿を捉えた。

浅井は頭を抱えるようにして小さく震えていた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る