五章 死者と凶手

第22話 茶の間にて

「頼家に続いて

 お母様まで殺されるなんて。

 よくそれで名探偵を名乗れますね!」

茶の間に入ると、

早くも政子の怒りに燃えた視線が

ボクを突き刺した。


部屋には姫子と頼家を除く全員が揃っていた。


「勘違いをされては困るのですが・・」

ボクは拳を握り締めて小さく深呼吸をした。

「ボクが依頼されたのは

 脅迫状の送り主を見つけることであって、

 お二人の命を守ることではないんですよ」

そしてボクは政子の視線を正面から受け止めた。

それに。

歴史上数多くの名探偵が存在しているが、

誰一人として

殺人事件を未然に防いだ者はいない。

事件を解決するのが探偵の仕事であって、

事件が起こらなければ探偵はその役割を失う。

それが推理小説というものだ。

しかしそれをここで話したところで

無駄なことはわかっている。


ボクの言葉に政子は唇を震わせた。

しかし結局、何も言わず視線を外した。


「・・これは『天罰』じゃないかしら?

 あんな遺言状を遺したお母様に対する

 ご先祖様の天罰。

 うふふふふ」

菊子が口元に手を当てて小さく笑った。

「それを言うなら

 『呪い』

 の間違いじゃないのかい?

 いひひひひ」

富子が手を叩いて笑った。

「あなた達っ!

 お母様が亡くなったのですよ!」

政子がヒステリックに叫んだ。


「いひひひひ。

 アタイらを責めるのはお門違いだよ、政姉ぇ。

 ねぇ、菊子?」

「ええ。

 でも。

 政子さんの機嫌が悪いのは仕方がないわ。

 頼家があんな死に方をしたうえに、

 相続権まで失ったんだから。

 本当に心から同情するわ。

 うふふふふ」

富子と菊子はお互いに顔を見合わせて笑った。

政子の顔がみるみる朱く染まっていった。


「あ、あの!

 お、お話し中のところすみません。

 姫子さんはどこで亡くなったのでしょうか?」

3人はボクの方を一度チラリと見ただけで

何も言わなかった。


「お先生を

 お姫様の

 お部屋へ

 お連れしなさい」

その時、

部屋の隅に立っていた福が五代に命じた。

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