第23話 姫の箸立て

本宅の酉の間が姫子の部屋だった。


襖を開くと

部屋の奥の布団の上で

着物姿の女がこちらに顔を向けて

倒れているのが見えた。

見開かれた両目が

虚空の一点をじっと見つめていた。

その顔は生前の姫子とさほど変わりがなかった。

それが余計に不気味でボクはすぐに視線を外した。


ボクが部屋へ入るのを躊躇っていると、

五代が先に部屋へ足を踏み入れた。

仕方なくボクは後に続いた。


布団とちゃぶ台、

そして洋服箪笥と姿見があるだけの

殺風景な部屋だった。

どの部屋にも調度品が少ないのは

作者の手抜きだろうか。

そんなことを想像した。


ボクが部屋の様子を観察している間、

五代は死体を調べていた。


「目立った外傷はありません。

 恐らく心不全かと思われます」

五代はドラマでも聞き慣れた単語を口にした。


心不全。

心臓が機能を失った状態。

つまりは死因不明。

ボクは溜息を吐いた。


「先生!」

その時、五代がボクの方を振り返った。


「・・陰部に箸が刺さっています」


ボクは吐きそうになって慌てて口を押えた。

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