第27話 姫子?

北条清家がいないだけで

いつもと変わらない時間が流れていた。


昼休み。


ボクは騒がしい教室からベランダへ出た。

校庭で多くの男子生徒が

走り回っているのが見えた。

3年2組の生徒もいて、

彼らはサッカーをしていた。

その中には日野正義と浅井秀一の姿もあった。

2人は友達の死についてどう思っているのだろう。


ボクは澄み渡った青空へ目を移した。

そして目一杯に空気を吸い込むと、

静かにそしてゆっくりと吐き出した。


授業中、こっそりと読み進めた

『夜霧家の一族』

にボクは心の底から恐怖していた。

更新されていたその内容が

昨夜の夢とそっくりだったからだ。

物語は探偵が何者かに

背後から襲われたシーンで終わっていた。



「皆、薄情ね」

その時、背後から声がした。

振り向くとそこに立っていたのは

姫島蘭子だった。


「な、何のこと・・?」

蘭子の言葉の意味が理解できずに

ボクは聞き返した。

「クラスメイトが自殺したのに

 皆、あんなにはしゃいで。

 それにあの二人は

 北条とは親友だったわけでしょ?」

蘭子の視線はグランドで走り回っている

日野と浅井を捉えていた。

「・・でも。

 私は彼の死に同情する気にはなれないわ」

蘭子の意外な言葉にボクは反応に困った。

「あなたも・・

 そうでしょ?」

丸眼鏡の奥の瞳が真っ直ぐにボクを捉えた。


その時、ボクはハッとした。


「ま、まさか・・」

「うん?」

蘭子は不思議そうに首を傾げた。


「い、いや、何でもない・・」

ボクは蘭子から逃げるように教室へ戻った。

そして廊下に出て大きく息を吐いた。

僅かに胸がドキドキしていた。

そしてそれ以上にボクの頭は混乱していた。


頼家が死んで

頼家に瓜二つの清家が死んだ。


ならば。

姫子は?

姫子が死んで・・。


ボクは頭を振った。

清家のことは偶然にすぎない。

ボクはもう一度大きく息を吐いた。

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