第26話 デジャブ?

3年2組の教室の前でボクは一瞬、躊躇った。

ボクは一度大きく深呼吸をしてから

思い切ってドアを引いた。


室内は喧噪に包まれていた。


「おはよう、水田。

 どうしたの?

 随分バッサリと髪を切ったのね」

それは学級委員長の姫島蘭子の声だった。

彼女はいつもと変わらず

その黒髪を三つ編みに結っていた。

度の強い丸眼鏡の奥の瞳がボクを直視していた。

「お、おはよう、委員長。

 う、うん。

 週末に気分転換に・・」

ボクは小声で挨拶を返してから

窓際の一番後ろにある自分の席に向かった。


しばらくすると

「ギーギー。ギーチョン」

と独特な音色のチャイムが鳴って、

担任の菊野夕貴が教室に入ってきた。

菊野は空いている席にチラリと目を向けてから

神妙な面持ちで口を開いた。

「皆さんに悲しいお知らせがあります。

 昨夜、北条君が亡くなりました」


教室中がざわついた。

皆が思い思いの言葉を口にしていたが、

ボクの驚きは彼らの比ではなかった。

その時、

廊下側一番前の席の蘭子が手を挙げた。

「先生、北条は

 どうやって亡くなったんですか?」

菊野はしばし逡巡した後、

迷いつつも徐に口を開いた。

「・・北条君は

 家の近くの公園の遊具で

 首を吊っていたそうです」


ふたたび教室がざわついた。

その喧噪の中、

ボクは一人小さく震えていた。


北条清家が自殺?

そんな馬鹿な・・。


ボクはふと未来の小説のことが気になって

こっそりとスマホを取り出した。


『夜霧家の一族』(Mr.M)


新たな話が公開されていた。

ボクは恐る恐るページに目を走らせた。

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