第10話 虚構

酉の宅に戻って一人になると

どっと疲れが押し寄せてきた。


信じられないことだが、

ここは未来の書きかけの推理小説

『夜霧家の一族』の世界だ。

そしてボクはその中の登場人物の一人、

名探偵の風来山人になっている。

それに・・。


ボクはゆっくりと小さい方の窓に近づいた。

窓からは夕日に照らされた乾の宅が見えた。

家主が不在のその家はやや寂しそうだった。


その瞬間、

ボクは突拍子もないことを思い付いた。


もしボクが探偵という役割を放棄して

この屋敷から逃げ出したら?


小説の世界から脱出を試みる登場人物。

普通、そんな登場人物は存在しない。

なぜなら

彼らはこの世界が虚構であることを知らない。

彼らにとってはこの世界こそが現実なのだ。

だが。

ボクは違う。

ボクが生きているのはこの世界ではない。

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