二章 日暮れと逃走

第9話 本宅と別宅

「リーリー。リーンリーン」

と虫が鳴いていた。


「何か聞きたいことがあれば

 いつでも子の宅を訪ねてきて下さい。

 家族と離れて一人で暮らしていると、

 話し相手が欲しくなる時もあるのです。

 先生の過去の事件の話なども

 お聞かせください」

頼朝は照れたように頭に手を当てた。


どういうわけか

本宅で生活しているのは

姫子、

政子と頼家の親子

富子と義尚の親子

菊子と秀頼の親子

の7人だった。


頼朝には子の宅が

秀吉には乾の宅が

与えられていて、

二人は家族と離れて暮らしていた。


そして3人の使用人。

福には卯の宅が

竹千代には巽の宅が

五代には坤の宅が

それぞれ与えられていた。


つまり。

頼朝と秀吉の扱いは

使用人と同程度ということになる。


「・・では。

 私は自宅に戻ります」

頼朝は立ち上がった。

「そうそう。

 子の宅の裏庭には

 珍しい植物が生えていましてね。

 その昔、

 子の宅に住んでいた祖先の一人が

 植物に大変興味のある人物だったらしいのです。

 『常葉萱草』や『定家葛』

 『夾竹桃』なんていうモノまで

 生えているのですよ」

そう言って頼朝は茶の間を出ていった。


しばらく待ってからボクも腰を上げた。

本宅から出たところで、

ボクは一度大きく背伸びをした。

それから紅く染まった空の方へと歩き出した。

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