Short Short STORY

@akanesakura

第1話 困らせ上手

「ちょっと、邪魔なんだけど。」


 目の前を通せんぼする長身ゆえに嫌味なくらい長い足を軽く蹴ると、


「いったーい」

 ぶりっ子のように無駄に瞬きをして元々くりくりな目をさらに大きく見せてくるからイラっとくる。



 ただいま玄関扉の前で押し問答中。

 珍しく余裕を持って家を出れると思ったところで、これだよ。



「出発できない」

「そうだねー」


「どいて?」

「えーやだ。」


 無理矢理にでも隙間から通ろうとするが、自分より大きい胴体に阻まれ断念する。



「…ドウシタンデスカー」

「もうちょっと聞く気出して?」

「……(面倒くさいな。)」

「めんどくさがらないでー?」


「ねえ、時間がなくなってきたんだけど」

「困ったねー」

「君がね。」


 食い気味の突っ込みにケラケラ笑うこいつ。



 この男は何が気に入らないのだろうか。


 きっと何か理由があるんだろうけど、今は時間!ない!



 本格的に焦るわたしを見て、ため息をついてしぶしぶ自供を始める男。

 ため息つきたいのこちらですが?



「だって、さー?」

「うん」


「いつもより化粧ばっちりだし」

「うん」


「服、お洒落だし」

「うん」


「可愛いから行くのちょっと邪魔したくなるじゃん」

「……。」



 不覚にもときめいてしまった私の負けだ。


 けど、時間は譲れない。

 電車は待ってはくれないんだ。

 ここは早口で進めていこう。


「今日は結婚式の二次会だからTPOに合わせただけ。」

「ふーん。」


「今度のデートはいつもよりお洒落する。」

「ふーん?」


「だから、」

「だから?」


「今週末は空けといてよ、ね゛ぇぇ」


 言い終わらないうちにぎゅーーっと思い切り抱き締められ苦しい。


「嬉しい!!」

 素直に喜ぶのはいいがそろそろ離してほしい、窒息したくない。


 ようやく離れたと思ったら今度はキスが降ってくるので、背中をバシバシ叩くと

「いって!」と止めてくれた。



「じかん!!!」

「大丈夫、だいじょーぶ」

「はぁ?」とキッと睨み付けるが、

 おどけながら何事もなかったかのように長い腕をほどくと扉を開け、

「ほら、行くよー?」

 なんてスタスタと玄関の外に歩き出す彼。



 意味わからん!

 なぜ君が行くんだよ!


 と内心ツッコミながらも荒々しくパンプスに足を通して追いかける。



「あのさ、急ぐから。もう少しも時間を無駄にできないから行くね」



 そう言って、玄関の外にいた彼の隣をすり抜けようとした。

 はずが、通り様に左腕を掴まれギョッとしながら顔を向ける。



 まだ止めるのかこの野郎!!

 と、もはや沸々としたマグマが噴火しそうな顔になってるだろう私を見て、



 ニヤッと口角を上げた彼。


 あ、なんか企んでる。

 と気付いたと同時にチャリと音が聞こえ、音のする方を目で追うと、



「会場までお送りしますね、お嬢様」

「………………。」

 腕を掴んでいない方の指先には車のキーが引っ掛かっている。



「…………………送ってくれるなら言ってよね」



______________________________________________


「お陰様で週末のデートの約束までできたし、結果オーライってことで」

「無駄に気力と体力を消費したわ」

「いやー次のデート楽しみだなー」

「やっぱ取り消そうかな」

「その申請はもう受理されたんで!」

「不備があったので差し戻してください」

「ないよ!不備なし!」

「ふっ。うそ嘘。」

「……」

「え、なんでこのタイミングでキスした?」

「んー?なんとなく」


「まぁいいや。というか車ありがと」

「いいよー。帰りも迎えに行くから連絡してね」

「別に自分でかえ」

「行くから」


「(圧なかった?)…あ、はい。よろしく」

「うん。よし、しゅっぱーつ!」



 そんなこんなでようやく無事に出発できたのだった。

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