アンチヒーロー01:バーニングファイター

 かつて、エフェソス《トルコ領》には狩猟の月女神アルテミスを祀る美しき神殿があった。

 しかし、ヘロストラトスというギリシャの若い羊飼いが燃やした。

 その理由は"自分の名を歴史に遺し、不滅になる"という理想の為に堂々と名乗り上げた。

 それを知った市民たちは彼や彼の名を公言する者を死刑にし、記録から抹消しようとした。

 しかし、彼らの健闘虚しく、今日までその名は確実に歴史へ刻まれた。


 Aクラス超雄ヒーロー、バーニングファイターこと火貌中勝は承認欲求の塊であったのは、幼い頃は影が薄かったせいだ。

 出来のいい弟に勉強や運動の面で活躍の場を奪われ、弟の存在が産まれてからは家庭にいる両親や親族、学校では全校生徒や教師にさえ見向きもされず、自分を居ない者として存在を否定された。

 能力が発現したのはその最中の中学三年生の頃、自身の誕生日さえも無視され、年違いの同じ誕生日を祝られた弟に憎悪を一点に向き、怨嗟の炎を吐き出し、灰と塵に変えた。

 そこから家族、親族、学校の全生徒全教師に至るまで家や学校を全てを燃やし尽くした。

 その当時の新聞は"原因不明の火事"として、世間から忌み畏れられた。

 それを感じた彼は自分という存在を認めない世界に復讐をし、それを知らしめる快感に目覚めた。

 施設に入った彼は独学で超雄ヒーロー養成校に入り、超雄ヒーロー救急隊レスキューズの選抜試験に合格し、自らの炎による自作自演に至った。

 燃やしたモノは自らを嫌悪した愛人や起訴しようとした記者、挙句の果てには便にまでの気に入らない奴たちだけだった。

 彼は確信していた。燃やすことは灯火のように他者の目を釘付けにし、火災のように他者を滅すること。

 そらは火一つだけで周囲を認めさせ、認めない者を排除できること。


 彼は産まれながらの放火魔ヘロストラトス であった。

 

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悪雄学園の正義否定(アンチテーゼ) @kandoukei

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