第八話:手負いの悪雄たち

 俺は中勝、いや、憎きバーニングファイターを出し抜いた歓喜を抑え、奪を抱え、その場から去った。目指すは向こうにあるであろうマンホールの出入り口。

「自らの尊厳を犠牲にすることで奴の自尊心に隙を産んだという訳か、お前はとんだ卑怯者だな。」

「悪かったな、裏切るような真似をして。」

「いや、たとえ俺を裏切ることが超雄ヒーローを倒せるのなら。何度裏切っても構わない。お前が俺の意志を継げるのなら。」

 俺は再び奪の顔を見た。静かな表情、無機質な口調、冷淡な調子、無慈悲な思想。

 その全てが超雄ヒーローを殺すという目的の為に無駄なもの全てを削ぎ落として最後に残った意志、それがこいつなのかもしれない。

 だけど、

「俺はまだお前にを教わってない。それにお前の為じゃない、俺の為に超雄ヒーローを殺すんだ。」

「そうか、ならいい。勝手な事を言って悪かった。」

 俺たちは走り続け、ようやくマンホールを開けて、シャバに出た。


 その数十分後、俺たちは再び、マンホールを開けた。

 そこには燃え尽きた下水が黒く濁り、酸素さえも薄くなっていて、高性能の小型酸素ボンベでなんとか行けるほどだ。

 俺たちはそれを使い、来た道を反対に戻っていた。

「かひゅう…、かひゅう…」

 そこにいたのは酸欠で倒れた中勝だった。顔色は青白く、呼吸も衰えていて、生きているのが不思議なくらいだ。

 愚かな民衆の前で見せた煌びやかで優雅な姿勢スタイルは見るも無惨に朽ち果てた。

「はっ! 自分の炎で酸欠になるなんてざまあ無えな! 本当、馬鹿な奇跡だぜ!」

「奇跡でも、偶然でもない。予め、下水道の一定区間の両端を壁で塞ぎ、下水道に引火性の油を入れておいた。奴の超異能アビリティを利用した歴とした罠だ。」

「罠? いくらなんでも大掛かり過ぎだろ、ドッキリ番組でも数人のスタッフが必要だろう。」

「罠が得意な協力者がいるんだ。この酸素ボンベもその協力者が作ったんだ。機会があったら、紹介する。」

 ほえ〜、そんな悪雄ヴィランがいるなんてな。と感心しつつ、俺はこのド腐れ超雄ヒーローをどうするか、悩んだ。

 そんな中、奪はナイフを出し、首筋をかっ切ろうとしようとしたので、俺は制止した。

「おい、待てよ! 今、殺したらそれで終わりになっちゃうじゃねぇか! もっとこう世間に知らしめるような処置を!」

「遊びだと思うな! 余計な欲を書いて、返り討ちにされると思うな! これは戦争だ! 悪と正義の戦争なんだ!」

 確かに、奪の言う通りだ。今は酸欠で気絶させても、目覚めたきっかけで今度こそ確実に殺されるリスクが目に見えている。

 だが、それでも、

「殺して終わるだけなら、何も変わらない! 俺たちが殺すべきなのは全ての超雄ヒーローだけじゃねえ! 奴らを求めた狂った世界じゃねぇか!」

 奪の目的が超雄ヒーローへの復讐ならそれでいいかも知れねえ。

 だが、俺は知っている。超雄ヒーローが嫌いというだけで家族や友達の輪どころか、社会にも爪弾きにされるこの狂った世界の成り立ちを。

 そう言った俺を奪は眼を丸くして驚き、言い返す。

「狂った世界ごと殺すのなら、この承認欲求の放火魔をどう殺す?」

「まかせろ、飛びっきり最悪な方法で全てを滅殺スレイしてやる。」

 俺はニヒルに笑った、俺たち、超雄殺しヒーロースレイヤー ズのこれからのやり方を。


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