第五話:悪意に満ちたチャンス

 奴が燃えた腕を振り下ろそうとした時、奴の顔がどこからともなく投げられた小瓶に当たり、割れた途端に刺激臭を放つ透明な液体をぶっかけられた。

「な、なんだ…あがあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 次の瞬間、奴は目を赤くし、面の一部も爛れ、倒れ苦しみもがく。

 俺は一目見て、硫酸だと気付き、投げられた方を見る。

 そこには燃やされた筈のコートの隣に俺と同じ被害者である青年がいた。

 その貌は今まで怒りに満ちた表情とは違い、相手を見下ろすような冷めた静かさを持っていた。

 俺を取り押さえた悪漢二人も気付き、俺を地べたに突き放し、拳銃やらスタンガンを構える。

「ああん!? てめぇ、なんで生きてやがる!」

「てっ、てめぇ、中勝さんになんてことを!?」

 スタンガンを持った悪漢が全速力でぶちかまそうとするも、すれ違いざまにもがき倒れた。

 何故なら、その青年は悪漢が持っていたはずのスタンガンで迎え撃っていた。

 もう一人の悪漢が拳銃を撃とうとする。だが、青年はそれに怯まないどころか、凝視し、

「BANDED《バンデッド》。」

 そう口にした瞬間、悪漢の手にあった拳銃が青年の手に物品瞬間移動アポートされ、その拳銃で青年は悪漢の頭を射抜いた。

 おそらく、奴の超異能アビリティだろうか?

 俺は二人の悪漢が瞬時に倒れるその姿を見て、ただ呆然とするしかなかった。

「来い、超雄ヒーローを殺したいんだろ。」

 その時、青年が不意にこちらへ来るなり、俺に手を差し伸べた。初めてだった、誰かに見る目にされ、差し伸べられるのを。

 未だ呆然とする俺に業を煮やした青年は俺の上半身を肩に背負い、ゆっくりだが、急いで歩いた。

 奴が痛みに悶え苦しんでいる間に。


 俺たちは工事現場近くの道端にあったマンホールから下水道へと逃げ、その途中で休んでいた。

 俺は青年から救急キットで脇腹の火傷を治されていた。

 どんだけ用意周到なんだよ、こいつ。まぁ、妹への復讐なら合点がいくけどな。

「さっき言ったのはフェイクだ。俺のような悪雄ヴィランに可愛い妹など居る筈がないからな。」

 こいつ、人が思っていることを見抜いたのか、たく、妹がいないとか心配して損したというか…?

「はっ? 悪雄ヴィラン…? お前が?」

 悪雄ヴィランっていうのは怪人モンスノイド超異能アビリティ持ちの大物犯罪者とかそういうのだろ?

 こいつ、地味過ぎじゃねぇのか?

「ああ、俺の名前は黒伽羅くろからだつ。超雄殺し《ヒーロースレイヤー 》だ。」

「何なんだよ、超雄殺し《ヒーロースレイヤー 》って、自分で言って、恥ずかしくないのかよ?」

「ああ、恥ずかしくない。お前の事は知っている。瞬木シュン。火貌中勝の一件以来、肉親との関係が悪くなり、家出をし、どうにか偽装戸籍を得て、アルバイトと学業に勤しみ、芽花ミミと出会う。」

 俺は目の前で自身の情報を簡潔に話されて、ある事に気付いた。怒りそうになるある事を。

「お前、どうして俺や芽花先輩を知っている?」

「火貌中勝こと、バーニングファイターを監視し、お前やあの女性のことを知った。そして、コンビニでの火事があった際もそこにいた…。」

「てめぇ! 俺がこんな目に遭った時も、芽花先輩が殺されそうになった時も、高みの見物をしていたって訳か! あぁん!」

 俺は自身や先輩を見殺していた青年、いや、奪を睨みつけて、壁に突き飛ばす。

 それでも、あいつは冷静さを失わず、あいも変わらず、ぶっきらぼうに言い放つ。

「俺の目的はバーニングファイターを殺すこと、悪雄ヴィランである俺が人助けなんてしない。」

 俺は憤るあまりに奴の眼前の右に掠って、拳を壁に打ち付け、脅した。

悪雄ヴィランがなんだよ!? 超雄ヒーローがなんだよ!? どいつもこいつも、なんで、芽花先輩を救えなかったんだよ!?」

「それは彼女に一番近くにいたお前にも言えることだろ。お前が俺と同じ悪雄ヴィランならば、尚更だ。」

 俺は真っ白になった。俺が… 悪雄ヴィラン

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