第二話:どこまでも堕ちる者

「昨夜零時、〇〇市の郊外にあるコンビニエンスストアで火災が発生しました。幸い、バーニングファイター氏が駆けつけ、鎮火しましたが、芽花ミミさんが亡くなりました。

火災の原因は瞬木シュンによる放火だと分かりました。動機は彼女に振られた故の逆恨み…」

 あれから俺は追われる身となった。S.H.Aによる私設兵ポーン・トルーパーや、超雄ヒーローに追われ、高架下や路地裏で潜むようになり、息を殺し、顔を見られることを恐れた。

 無責任なアナウンサーが俺に被せられた罪を酷評する度に血がでそうになるくらい下唇を噛み締め、雨夜に浮かぶ街道モニターを見る瞳をギラつかせた。その顔をフードで潜ませ、絶望に打ちひしがれた。

 その時、ミミ先輩の葬式が映し出された時、俺は目を疑った。そこには遺族だけでなく、あの男がいた。あの左頬に痣を付けながら。

「彼女を守れなかった! これが私の罪だ! その罪を背負い私は必ず悪しき青年犯罪者、瞬木シュンを捕まえ、彼の悪しき意志を倒してみせる!」

「ありがとうございます、バーニングファイター…必ずあの糞を殺してくれ! あの価値の無い悪党ヴィランを!」

「何で何処にもいるか知ることはない凡人に殺されなきゃいけないんだ! 死んでしまえ!」

「お姉ちゃんを返せ! 世界の塵がぁ!」

 あの野郎の、甘いマスクを被った真犯人を祭り上げ、無罪である俺を人以下に扱う彼らを見て、確信した。

 人の善悪は真偽関係無く、超雄つごうのいいもの悪雄つごうのわるいものに分けられることを。

 俺は理性も、正気も、失いつつあって、こんなに惨めな自分を笑いたくなった。

「ひっ、はっ、あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 だが、現実は天高く地響くほど泣き喚き、腹の底から悲壮の憤怒を叫び出した。

 その時は追っ手は運良く現れなかった。そんなことはどうでもいい。もう何もかもどうでもいい。俺はどうなったっていい。


 それから俺はあの男、バーニングファイターこと火貌ひかお中勝なかかつを密かに追い回した。

 スーツと化した消防服に身を包むそいつは炎を自在に操る能力と防火性質の肌を持つ超異能アビリティ覚醒者・ホルダーであり、それ故に自然災害からの救助を主とする超雄ヒーロー救急隊レスキューズ(通称、S.H.R)にスカウトされたが、そいつは今まで気に入らないマスコミやしつこい元彼女もとカノを燃やし、火事騒ぎに乗じて他人を救うというマッチポンプを行なっている。

 放火魔の消防隊員を産むこの世界は狂っているが、奴自身が火災であり、容易に近づけず、建物に入った途端、即で燃やし尽くす為、写真さえ撮れない。

 そんな風に尾行を続けると、誰の人影どころか物影もいない打ち捨てられた工事現場に入って行くのを見た。

 壁際から覗いてみれば、中勝と取り巻きの二人、そして、彼らに捕まった青年がいた。

 俺位16さいの年齢で左眼が赤いメッシュが着いた黒髪に隠れた短髪黒瞳の男性だった。どこぞの墓場の幽霊族みたいだったが、そいつは開口一番に叫んだ。

「俺の妹を返せ! この放火魔!」




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