第11話

 男風呂にやってきた番台さんと、女性たち。


 それは、どこかの魔王軍のような。

 そんな禍々しいオーラを感じてしまう。


 実際には、悪のオーラなんていうものは出ていないのだが、銭湯から出ている湯気がそうさせているのかもしれない。


 番台さんを先頭にして、全員が裸姿。

 行進するたびに、無数の発育が上下左右に揺れている。


 この威圧感は、人数が多いだけではないのだろう。

 大勢の発育に見つめられているような、気さえしてくる。

 一人につき、目が二つだけではないような。

 もっと多くの目に見つめられているような。



 皆が殺気立っているのもあるだろう。

 行進の足音が、ドスドスと俺の耳に響いてきた。


「……とうとう来たか」


 どこかの異世界に転生した勇者のようだな。

 そんな、セリフが口から漏れ出てしまった。


 なんでか、俺の隣にいる発育抜群女さんも、『敵』が来たかのような俺の口調に合わせて来た。


「……そのようね。……この人数、私たちは勝てるのかしら」


 あなたは、あちら側の味方であって、俺の敵ですよね……。

 そんなことを言おうとしたが、俺の心の中にしまっておいた。

 一人でも味方でいてくれるなら、その方が良いですし……。



 番台さん率いるお姉様たちの大群は、湯船の手前まで来ると歩みを止めた。

 番台さんは、ニヤッと、片方だけの口角をあげるように不敵な笑みを浮かべた。


「……発育抜群男。お前の望み通り、大勢の女性を連れてきたぜ? これであれば、お前の発育は耐えられないはずだ!」


 そういうと、俺を挑発するように女性たちは、その場で発育をボインボインと揺らしだした。



 ――ゴクッ。


 ウォーミングアップのつもりだとしても、破壊力抜群だ。

 もう既に俺はやられているというのに……。



 諦めの境地に至る俺は、せっかくの機会なので大勢並んで女性を端から端まで眺めていく。


 ……左から。大きい、大きい、形が良い。

 ……小さい、中くらい、すごく大きい。


 俺の思考を読んでいないと思うが、発育さんも同じように左から眺めていた。


「……左から、柔らかそう、柔らかそう、固そう。……小さいのも良いし、中くらいが私的にベスト。大きすぎると肩こりが大変そうだから同情しちゃいます……」


 発育さんは、本音が全部駄々漏れだな。

 なんで一緒になって見ているんだか……。


 番台さんは、俺の隣にいる発育さんを認識したようで、声をかけた。


「発育抜群女。作戦通りに、こいつが逃げないように捕まえていてくれて感謝するぞ」


 そう言われた発育さんは、ゆっくりと首を捻りながらこちらを見て来た。


「……そんなこと言われてましたっけ?」


 俺に聞かれても、知らないのだが……。

 番台さんは言葉を続けた。


「そろそろ、こちら側に戻ってこい。一緒にこいつの発育を拝もうではないか?」


 俺のことを見下すように見てくる番台さん。

 なんだか、本当に魔王みたいだな……。


 発育さんも、本当は敵なわけだし。

 俺ももう、ここまでなわけだな。


 最後に、いっぱいの発育が見れて良かった。

 目に焼き付けてから、刑を執行してもらおう。


 悪いのは、俺だもんな……。



 俺は、最後にして最大の辱めを受けるべく、立ち上がろうとしたが、それを発育さんが止めた。

 俺を腕をギューーっと力強く握って、俺を湯船の中にとどめようとする。


「……な、なんで俺を止めるんだよ。悪いのはおれ……」


 俺の言葉を遮って、発育さんが喋りだした。


「……ダメです。あなたと私は、まだ休戦中です。この状態であなたが捕まってしまうのは、不本意です」

「……いや、そうは言っても」


「ダメったら、ダメなんです。一緒にカラオケ行ってくれるって言ったじゃないですか! あの時の言葉は、嘘だったんですか? 私……、嘘つく人嫌いなんですよ……」


 発育さんは、濁りの無い瞳で、まっすぐに俺を見つめて言ってくる。

 捨てられた子犬のような、泣きそうな顔をしている。


 発育さんは、今まで色んな人に嘘をつかれては、裏切られてきたんだろう……。


 今度だけはと、俺のことを信じてくれていたのだと思う。

 俺の腕を握る手が、一層強くなった。



「そうは言っても……」


 俺が困って言葉に詰まっていると、番台さんが話の間に入ってくる。


「どうやら、発育抜群女を味方に引き込んだようだが、私は許さないからな。私の銭湯で不純は、ぜーーーーーったいに許さないから!!」


 番台さんは、強めの語気で言ってくる。

 この銭湯への思い入れが、相当強いのだろう。


 番台さんのためにも、俺は諦めてしまった方が良いと思うのだが。


 隣の発育さんが、泣きそうな顔をしてこちらを見てくる。



 ……俺は何を悩んでいるんだ。

 ……このまま白状して、罪を受け入れるべきなのに。


 けれども、どうしても、発育さんの気持ちを優先させたくなってしまう。

 もう泣き出す寸前の声で、発育さんは俺に気持ちを伝えてくる。


「……あなたが透明人間だったとしても、私はあなたと一緒にカラオケ行って、遊びたいです」




 ……そうだよな。発育さんは、俺以外に信じられる奴なんていないんだもんな。


 母親以外で、初めて裸を見た女の子。

 その子を悲しませてしまうなんて、男として情けない。


 隣にいる発育さんを悲しませることこそが、最大の罪なのではないか?



 俺は、覗きなんかで捕まってる場合じゃないのかもしれない。


 番台さんは、最後の一押しと、攻撃を仕掛けてくる。



「それでは、皆さん。覗きを捕まえてください!!」


 番台さんがそう言うと、番台さんの少し後ろに並んでいた女性たちが、一斉に湯船めがけて歩みを進めてきた。


「ちょっと待ったーーーー!!!」


 俺の声は、思ったよりも浴室に響いた。



 俺は、どうにか捕まらずにこの場を切り抜けたくなってしまう。

 そんな気持ちが芽生えていた。



「お前らに連れ出されれなくても、俺が最高な発育を見せてやるよ!!」


 そう言うと、皆は動きを止めた。

 代表として、番台さんが言葉を紡ぐ。


「良いだろう。最後ぐらいお前に花を持たせてやる。自分から出てこい」


 女性たちは隊列へと戻り、俺の出てくるのを待ち構えた。


 女性たちが戻る間に、俺は優しく発育さんへと伝える。


「少し離れていてくれ。そして、『心を読む能力』を発動する準備をしていてくれ……。既に日付は変わっているから使えるはずだ……」

「……ほぇ?」



 俺は、発育さんを少し遠ざけると、番台さんと立っている女性たちに向けて、威勢よく言った。


「それじゃあ、見せるぞ!! 全員、恥ずかしがらずに、目に焼き付けておけよ!!!」


 俺は、湯船で立ち上がって、その場にいた全員に発育を見せつける。


「これが、俺の発育だ!!!」

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