第66話 下見、和解、思い出の公園にて
半ば強制に連れていかれる形で自転車漕いで目的地へ向かう。
白守さんと女子が先行して男子2人に挟まれる位置に配置された。
自転車なので下手にUターンして逃げようにも両サイドの男子が邪魔で出来ないし、前に出ようとするならば白守さんと女子で阻止されるという思惑なのだろう。
まぁ、わざと止まってしまえばいいような気もするがここまで来たら諦めるしかない。仮に上手く逃げたとしても白守さんによって見つかってしまうのがオチだ。
「もうちょっとで着くかな?」
女子がそう言ったあたりで俺は嫌な予感がしてきた。
上り下りを繰り返し、閑静な住宅街の中を進む。なんというか見慣れた──いや、見覚えのある道といったらいいのだろうか。
傷を軽くなぞられたかのような痛みが胸をなぞる。そのまま別の道に逸れて欲しいと思うがその祈りは届くことはなかった。
「ここ、ここ! とうちゃーく!!」
「上り坂きつかったぁ~」
「ふぅ」
クラスメイト達は呑気な言葉を吐きながら自転車を止める場所を探す。みんなに付いていって自転車を押す足が重くなるのが分かる。
その中、白守さんが俺の様子を気にしているような素振りを見せた。
「寺川君?」
「はは、因果なもんだな。よりにもよってまたここに来ることになるとはな」
「どういう意味?」
疑問半分、心配半分な様子で聞いてくる白守さんに自嘲気味の笑いを浮かべる。
クラスメイト達は自転車を停めてこちらに何かを叫びながら手招きをしてた。
「俺の
「うん。もしかして元親友さんとお別れした場所?」
「そうだ、な」
簡単な遊具に小さめのグラウンドがある公園。この先の坂を上るとちょっとした庭園モドキがある。
俺達が到着したのは俺の出身中学の横にある公園──俺がかつての親友と決別した思い出の地である。
「おーい! いちゃついてないで来いよ~」
クラスメイトの渾身の叫び声に呼ばれてクラスメイト達が自転車を停めている場所の近くに俺達も自転車を停める。
小学生のような素早い動きでクラスメイト達は小さめのグラウンドに行った。
「このくらいの広さがあれば準分だろ? な?」
「鬼ごっこもできそう」
「アンタらねぇ。白守さんが困ってるでしょ?」
学校のグラウンドの1/4程度の大きさなのにこの喜びようである。確かに長縄の練習する程度であれば問題はないか。
でも──
「みんな、ここは止めた方がいいかも」
「え?」
白守さんは意外な言葉を出した。それに俺も含めはしゃいでたクラスメイト達も動きを止める。
困惑の目を向けている俺に優しく微笑みながらゆっくりとグラウンドに足を踏み入れる白守さん。そしてグランドわきに設置されているフェンスの方向を指さす。
その方向を見るとこちらの様子をうかがう5人ほど子供達の姿が見えた。
「ほら、みんなここで遊びたさそうにしてるから私達の都合で奪うのは良くないよ」
みんなが言葉を失う。
そこまで考えていなかった。確かに最近は外で遊ぶ子供が減ってきているとはいえ、いなくなったわけではない。
彼らにとって俺達は大きくて怖い存在だ。まだ先輩後輩の概念がない世界にいるとはいえ、俺達が一部でも占拠してしまったら近付きがたくなるだろう。
それに俺の嫌な思い出の地だということを隠すための方便だとしたら……。白守さんの親切心を無駄にするのはいかがだろうか。俺の自意識過剰であればそれまでなのだが。
「だからあの子達のために──」
「ならよ、こうすればいいんじゃね? おーい!!」
男子の1人が子供たちに向かって大きく手を振る。いきなりのことで子供たちはびくっと体を震わせるが恐る恐るといった様子で近付いて来てくれた。
まだ恐怖が隠し切れない目でこちらを見る子供たちにクラスメイト達はさらに声をかける。
「何しようとしてたの?」
女子が屈んで優しい声で尋ねると子供達はお互いの顔を見合わせて頷く。
そして手に持ったサッカーボールを前に出した。
「さ、サッカー」
「なるほどな。じゃあさ、お兄さんたちと一緒にやらないか?」
「そうだな、こういうのは人数が多いほど面白いからな。どうだ?」
ニッコリと笑い、提案する男子に子供達は元気よく頷く。
そうすると男子は俺の腕を引っ張った。
「寺川も参加しろよな」
「えー……」
「じゃないと人数揃わないだろ?」
「じゃあ、女子達は審判頼んだ!」
唐突な決定に反対する間もなくキックオフ。ボールが勢いよく小さなグラウンドを転がり始める。
***
「ふぅ、酷い目に遭った……」
「お疲れ様」
慣れない運動に息を切らせながら階段で腰を掛ける白守さんの横に座る。
解放されたのは1時間弱ほど経った頃。運動は微妙な俺が入ったとしても男子高校生だと戦力差が出てしまうということで俺の代わりにクラスメイトの女子が参戦することになった。
審判も形だけとなってしまい、だた見守るだけの簡単な仕事だ。
「寺川君大丈夫、なの?」
「大丈夫だ」
一瞬、なんのことか分からなかったが多分、練習にここの公園を使うことに対しての質問だろう、と見当をつけて答える。
しかし白守さんの俺を心配する目は変わらなかった。
「俺もな、白守さんみたいに前に進んでみることにしたんだ」
まだちょっと怖いけど。今日もちょっとケンカみたいな感じになってるし。正直、今は上手くいってないような気がするし。
そんな上手くいくほど甘くないのは分かってきたところだ。いってしまえばこれは俺の今までのツケを払わなくちゃいけない段階なのだろう。
「だからさ──」
「ごめん!」
気にすんな、と言いかけた辺りで白守さんが俺に向かって思いっきり頭を下げる。
疑問符を浮かべるだけで俺は何も言えずにいた。多分、今の俺の顔は目が点になっているだろうな。
「やっぱり最初に寺川君に声をかけるべきだった。ちょっと恋バナ始まっちゃって呼ぶタイミングを逃しちゃってそれで……」
「いやいや、俺も悪かった。モヤモヤしちゃってなんか嫌な感じの態度だったし……」
白守さんに対抗するように頭を今できる最大限まで下げる。
謝罪に謝罪がぶつかった反作用なのか急に笑いが込み上げてきた。同じように白守さんの笑い声も聞こえてくる。
「もう。真剣なのに笑わないでよ~」
「白守さんこそ笑ってるじゃん」
お互いの笑う顔を見てさらに笑うという連鎖にまた笑ってしまう。
深呼吸して落ち着いて笑いを収めた。
「じゃあ、仲直りってことで」
「ああ」
出された白守さんの右手をしっかりと握る。この時期なのか白守さんの手は少々冷たく感じた。
次第に俺の手の温度で温まってくる。
「この公園、練習に使っても大丈夫そう?」
「ああ、でも子供の相手で何人かいなくなりそうだな」
「確かに」
白守さんの一言でまた2人同時に笑いだす。
一息ついて子供と大きな子供達のサッカーの試合を見守っていると。
「そこのカップルも入って来いよ!」
「そんなんじゃねぇって!」
クラスメイトの大声に自分でも驚くほど大きく明るい声で返し立ち上がる。
そしてまだ座っている白守さんに手を差し伸べた。
「行こうぜ。上手くやるからさ。な?」
白守さんはほんの数秒、考えてから大きく頷き俺の手を取る。
そしてもうサッカーという競技かも怪しいスポーツに乱入した。
「よし、リア充カップルに総攻撃だ! 皆行くぞ!」
「はぁ? さすがに2対8は卑怯だろ!」
いつもとは違う騒がしさに胸を躍らせながら全力で時間を楽しんだ。
***
「じゃあね~!」
子供達の帰宅を促す市内放送が流れた辺りで子供達は帰っていった。
俺達はその小さな背中たちに向かって大きな声で手を振って見送る。
「いやぁ~白守さん達っていつもこういうことしてるの?」
「なんのことだ?」
女子が子供達に手を振りながら俺達に聞いてくる。質問の意味がよく分からず間抜けな声を出してしまった。
「クラス委員のことだろ? な~んか面倒くさくなったって聞いたぞ」
「そうでもないけどね」
わざとぬが無視を噛み潰したように言う男子性に白守さんはゆっくりと首を横に振りながらそう答えた。
まぁ、子供達のエネルギーには驚かされることも多いがなんというか悪くない気分だ。まぁまだ子供絡みの仕事は1回しかしてないが。
「そうでもあるだろ? やっぱよくやってるよ。白守さんも寺川も」
もう片方の男子が俺の肩を軽く叩いて元気づけてくれる。
同意するように他の2人も大きく首を振ってくれた。
「じゃあ、申請書類は2人に任せていいか?」
「ああ」
「うん」
クラスメイトの問いかけに白守さんと一緒に返事をする。
その様子にクラスメイト達はどこか安堵した様子を見せた。
「さて、夫婦喧嘩も収まったところで帰るか!」
「ええ」
「そうだな」
そう言ってクラスメイト達は俺達の自転車の置いてある場所へと向かう。
いや、ちょっと待てよ──
「俺達はそんな関係じゃないっつーの!!」
「やばい、バレた逃げろ!」
さっきの子供達よりも騒がしい雰囲気で俺達は帰路についた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます