第59話 青春ロック!
先輩達と別れた後、あまり時間がなかったので自分のクラスへと戻って時間を潰していた。
戻った頃にはディスプレイ棚にあった駄菓子はほとんど売り切れており、終了も間近なこともあってから客足もまばらになっている。
クラスメイトの報告によるとほぼ昨日と同じタイミングで客が大勢来たので対策として決めておいた予備の人員が役に立ったとか。こればかりは白守さんでも俺でもなくクラスメイト達の提案だったので助かった。昨日と同じように緊急で呼び出されていたら俺達は押谷先輩の演劇を見ることができなかっただろう。
『これにて第47回七曜祭を終了します。一般入場の方はお忘れ物のないよう気を付けてお帰り下さい。生徒の皆さんは片付けを始めてください。生徒会役員は後夜祭の──』
文化祭開始時と比べると長い放送が流れるとクラスにいた数少ないお客もそれぞれのタイミングで教室から出ていく。
それとほぼ同タイミングでみんなで片付けを始める。組み立てや設置にかかったディスプレイや装飾があっさりと片付いていき、どこか寂しさを感じた。
──そうか俺の初めての文化祭はもう終わったんだ。
自覚が芽生えると寂しさは一気に積みあがってくる。そんな気持ちに押しつぶされそうになっていると誰かが俺の肩を叩いた。
「寺川君どうしたの?」
白守さんだ。どこか寂しそうな笑顔を浮かべながら俺の顔を覗き込むように見ている。
「なんかな、祭の終わりをこんなにも惜しく感じるのは初めてでな」
自然と正直な気持ちが口から発せられる。それを白守さんは何も言わずに聞き入れた。
「初めてクラスのみんなで協力出来たイベントだから寂しいよね」
「そうか、俺はみんなと作り上げた文化祭が終わるのが嫌だったんだな」
「え? 気付いてなかったの?」
「気付かないふりをしてた、のかもな」
白守さんの言葉に自嘲気味に笑って見せる。なんだかんだ、まともに白守さん以外のクラスメイトと話したのが今回の文化祭の準備からかもしれない。
声を掛け合って準備を勧めたり、白守さんが倒れるというトラブルに一緒に対処したりと今までで一番、クラスメイトと協力で来た日々。
それが心地よかったのかもしれない。いや心地よかったんだ。だからこんなにも寂しいんだ。
「全く同じメンバーで文化祭はもう出来ないんだな」
「そうだね。来年はクラス替えもあるし、再来年も理系と文系に分かれるからまたクラス替えあるだろうし」
噛みしめるように言うと白守さんは寂しそうな声で肯定する。それ以上は俺も白守さんも一言も話さなくなった。何も言わずに教室の一角で立っているだけ。
クラスメイト達もやることが無くなり、雑談で教室中が騒がしくなった時、教室のスピーカーからノイズ音が聞こえる。
『これより、閉会式を始めます。一旦、片付けを中止して先生の誘導に従って体育館に移動してください』
「ほら、廊下に並んだ並んだ」
するといつの間にか教室にいた担任が立ち上がり、そう指示した。
「行こっか」
「そうだな」
短く白守さんとやり取りをして廊下に出る。
クラスメイト達もほどほどのタイミングで雑談を打ち切り、廊下へと並ぶ。しばらく待つと移動が始まった。
前は向いているが全く別の方を見ているような感覚に陥りながら体育館へと歩みを進める。
***
開会式と全く同じような雰囲気の体育館だがやはりどこか雰囲気が違う。いつもと違う点は前から1年生、2年生、3年生と並ぶのだが1年生と3年生の配置が逆である所。
ステージの幕は下がっており、他のクラスからもどこか『終わり』に対する寂しさを感じた。
ただステージの方に目をやってボーッとしていると不意に隣の白守さんが俺に体を預けてくる。いきなりのことなので危うく倒れそうになるが何とか持ちこたえた。
「どうしたんだ?」
「ん~? なんとなく」
悪戯っぽくそれでいて寂しさも感じさせる笑顔で返す白守さん。
マイクを入れる音が前方のスピーカーから大音量で流れた。驚きながらも白守さんからステージに視線を移す。
ステージには開会式と同じく文化祭実行委員の姿があった。
『まずはみんなお疲れ様! 文化祭はどうだった?!』
問いに対して返事の内容は違うものの概ね同じといった感じだ。
みんな気持ちはほとんど一緒だった。
『さて、今年から後夜祭が復活する関係で校長先生の話は割愛して新人賞、ミドル賞、七曜大賞を発表だ! 外部、教師、生徒会の投票で決まるぞ。まずは新人賞!』
吹奏楽部部員によるドラムロールが始まる。後夜祭の関係かそれとも吹奏楽部員への配慮かそれは思ったより早く終わる。
『1年2組駄菓子屋レトロ!』
感傷と予想外の結果によって反応が遅れた。クラスメイト達は大きな歓声とともに立ち上がり、クラスメイト同士を称え合う。
それも束の間、すぐに座るように先生から指示が出る。
「やったね。って嬉しくない?」
「そんなことはない。ただ、取れるとは思ってなかったからな」
冗談めいた質問に小さく笑って返すと白守さんが小さく拳を突き出す。
「押谷先輩とやってたでしょ?」
「あ~、そうだな」
何事かと一瞬、首をひねってしまったが白守さんの言葉に納得する。
そしてクラスメイト達が座り終わるとほぼ同時に白守さんの拳に軽く拳をぶつけた。
『落ち着いたな
次は──とミドル賞の発表。どうやら受賞したのは中庭でやっていたクレープ屋。
『映え』と並んでいるお客への配慮が成されている点が評価されたそうだ。
そして先輩達が待ち望んだ時が来る。
『最後に七曜大賞! どのクラスがこの栄冠を勝ち取ったか!』
ドラムロールが鳴る。やはり大賞なだけあって先程よりも少し長めに感じた。
最後の一打が力強く撃ち込まれる。
『3年2組演劇『白雪姫』!!』
俺達の時とは比べ物にならないくらいの声量で押谷先輩達のクラスが立ち上がる。
しまいには先生達の制止も聞かずに3年2組の担任の先生らしき人物を胴上げしていた。
『落ち着いて落ち着いて、時間押してるからそういうのは後で!』
実行委員の呼びかけでやっと落ち着いた。
しかし先輩達からは興奮の熱がまだ感じられる。それほど嬉しかったのだろう。
『今回はすごい僅差だったが3年2組のクオリティの点が評価されたようだ。みんな拍手!』
体育館中から先輩達を称える拍手が響く。それはすぐに実行員の手振りによってリズミカルに締められた。
実行委員会は小さく咳ばらいを1つする。
『さて、気付いてる人もいるかもだが、ステージの幕が閉じているのはなんでか分かるか?』
分かるわけないだろ、と内心でツッコむと代弁するかのように前方から「分かんねーよ!」という返事が聞こえた。
『じゃあ、ネタばらしと行くか!
実行委員の合図とともに幕が上がり、実行委員は舞台袖へとはける。
幕が上がりきったところでドラムの合図によって演奏がが開始された。
『軽音楽部で『青春の足跡』!』
前奏の邪魔にならない程度に実行員会がそう言って歌詞へと入る。
正直な話、お世辞にもうまいとは言えない演奏だ。
──しかし、なぜだろう心の中に響くような旋律に心が躍る。
いつの間にか体育館にいる生徒ほぼ全員が立ち上がり、軽音楽部のビートに合わせて体を揺らす。
この空気に充てられたか俺もゆっくりと立ち上がろうと態勢を変えた。
「寺川君。はい」
いつの間にか立ち上がってた白守さんが手を差し伸べる。
俺は笑みだけを浮かべてその手を取り、立ち上がった。そして達成感と消えぬ淋しさに身を任せて演奏に聞き入る。
白守さんの手を握ったまま。なんとなく放したくない気分だったのだ。白守さんが嫌がる様子を見せないのでこのままでいいよな。
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