第51話 とりあえず占い

 開幕から自分のクラスの出し物に手を出すという少々おかしな行動をしてしまったわけだがこの後どうしたものか。

 俺と白守さんのシフトは当然の如く一緒にされており、それまでかなり時間がある。

 あてもなく教室から出てると当たり前のように白守さんがついてきた。別に拒絶する理由もないので白守さんの方へ向く。


「どこ行く?」


 そう聞くと白守さんは可愛らしく顎に手を当て考え始める。待っている間、俺も自分がどこに行きたいかを考えてみるとしようか。

 押谷先輩のクラスの演劇は必須としてド定番そうなお化け屋敷は少し気になるな。


「占いとか?」

「占い? そういえばあったな」


 かなり胡散臭い広告で俺的にはあんまり行きたくない。なんというか動画サイトに出てくる宣伝のような臭いがするのだ。

 『あなたの運命の相手お探しします』やら『カードで読み解くあなたの未来』等、信じがたい内容である。

 まぁ、拒否したところで他に思い浮かぶ候補がお化け屋敷だけだ。お化け屋敷だけで残り時間を潰しきれるわけもないのでここは少し勇気がいるが行くしかないだろう。


「行こうぜ。ちょっと胡散臭そうなのが怖いけど」

「え~、そんなことないよ~! 面白そうじゃん」

「そうか?」


 占いは2年生の先輩の出し物なので俺達の教室とは別の棟にある。厳密には2年生と3年生の教室がある棟は一緒で何故か1年生の教室がある棟だけ別なのだ。

 いつもより賑やかな廊下を周りに気を付けながら移動し、目的の教室へを向かう。

 接点があった2年生というとクラス委員を除くと入学したての頃、白守さんに絡もうとした顎が特徴的だった雅な先輩くらいか。

 白守さんと特にこれといった会話もなく考え事をしていると目的の教室が見えてくる。

 窓という窓が遮光カーテンで塞がれており、見るからに怪しい。昔の知育菓子のCMに出てきそうな魔女の格好をした先輩がこちらの存在に気付き目を輝かせる。


「占いいかがですか?」

「あ、いや、通りかかっただけ──」

「2人で入れますか?」


 怖くなったので逃げようとするも食い気味に答えた白守さんによって阻止される。

 俺の非難の視線を可愛く首を傾げて受け流す白守さん。まぁ、逃げても引き戻されるだろうから結果は一緒か。


「入れますよ~。カップル1組入りまーーす! ターゲッ──お客様は1年生。健闘を祈る」


 いきなり元気な声を出したかと思うとポケットからトランシーバーを取り出して何かを離す先輩。否定する気も失せるほど不穏な発言が聞こえたのだが……。ハッとなって『カップル』ということを否定をしようと思ったが完全にタイミングを逃してしまう。

 少しだけ待たされると中から扉を叩く音がした。


「どうぞ入ってください」

「楽しみだね!」

「俺は怖いよ」


 子供のようにはしゃぐ白守さんに子供に振り回されて疲れている大人のような俺という構図で怪しげな占いの館のようなものに足を踏み入れる。

 中も窓が遮光カーテンで塞がれており、蛍光灯の代わりに怪しげな光を放つ球体が教室を照らしていた。

 見ようによってはプラネタリウムのようにも見えるかもしれないがそんな余裕は俺にはない。


「ではご案内します」


 中にいた先輩が作ったようなボソボソとした声で先導し始める。

 先輩は1つのブースの前に止まると中に入れという意味で手振りをした、のだろう。


「こちらのブースの中へどうぞ」


 何も言わなかったので不安になり、白守さんと顔を見合わせるとやっと先輩が声を出して誘導してくれる。少しイラついたような言い方であったがボソボソ声は崩さなかった。

 中に入ると無駄に長いテーブルクロスをと水晶玉が置かれた机を挟んで本格的な占い師の格好をした先輩が迎えてくれた。ろうそくを模した電池式のライトに照らされた姿はとても怪しい。


「よろしくお願いします。私のことは『柏藤の母』と呼んでください。まずは何を占って欲しいですか?」


 こちらの先輩も作られたような声色でそう言った。いや、『母』というほどの年齢じゃないだろ。俺達と1つしか変わらないんだから。留年ダブってたら違うかもしれんが。

 先輩の目は前髪とローブで隠れてしまっていて見えないが恐らくこっちを見ているだろう。占い師って顔出してるもんじゃなかったか? なんというか少し古い感じが否めない……。


「運命の相手を占ってください!」

「へ?」


 白守さんの生き生きとした声に思わず間の抜けた声が出る。でも気になるな。でもこういうのは軽めのから始めるのがいいんじゃないか? 今週の運勢とか色々あるだろう。


「いいでしょうでは占っていきます」


 先輩は水晶の横に手をやり、何か力を込めたような唸り声を上げる。

 お手本通りな動きに笑いだしそうになるがここはグッと堪える。


「──あれ?」


 数秒の間を置いて先輩は首をかしげながら先程の俺と変わらないような間抜けな声を出した。何事かと水晶玉を覗いても何か以上があるようには見えない。


「どうしたんですか?」


 心配そうな表情で白守さんが先輩にそう聞くと困ったような声を上げ、眉間の上あたりを軽く指で何回か叩いた。


「映らないんです」

「何がっすか?」

「あなた達の運命の人が映らないんです」


 つまり俺達の運命の人は占えない、ということか。まぁ所詮、素人の占いだ。結果出ないってこともあり得るのだろうな。


「本来なら隣に運命の人の顔が映るのですが、『お2人の顔が映っているだけ』で何も映らないのです」


 声から感じるのは動揺。この感じだと相当練習などをしたのだろう。想定外の事態が今まさに起こっているから動揺しているのか。


「失敗は誰にでもありますよ。じゃあ、何か別の占いやってください。今度こそ上手くいきますよ!」

「そう、ですね」


 白守さんの言葉に励まされたのか先輩は気を取り直してカードの束を1組を取り出し、シャッフルし始める。トランプにしては大きいし、枚数も少なく見えた。

 念入りにシャッフルをする先輩は次に水晶玉を一回片付けてバラバラにカードをバラまき、また1つの束に戻してまたシャッフルする。そんなことをしたら上下逆になってしまうのでは? 大丈夫なのかな……。さっきのこともあるし。

 固唾をのんで見守っていると先輩はカードを3つの束にして前に出す。


「まずは後輩ちゃん、束を一つ選んでください」

「はい」


 白守さんが束を選ぶと他のカードは下げ選ばれたカードの束でまた3つ山を作り、白守さんに選ばせる。

 それを繰り返し最後に残り3枚の状態で白守さんに選ばせた。まずは先輩が白守さんが選んだカードを俺達に見えないように見る。


「では開示しますね」


 先輩はそう言って俺達に見えるようにカードをひっくり返す。

 やはりというか先輩の扱っていたカードはトランプではなかった。確かタロットカードと呼ばれている物だ。絵柄やカードの上下で占う物だったっけ。

 表になったカードには間抜けな顔のスフィンクスみたいな動物に引かれた乗り物に乗る男が描かれていた。


「『ザ・チャリオット』の正位置です」


 チャリオットは確か『戦車』って意味だな。そう考えていると先輩が解説を始めた。

 内容を簡単にまとめると『困難を乗り越えた先で幸せを手に入れる』、『積極的な行動が吉』、といった感じだ。

 カード1枚でこんなにも出てくるもんだなと感心していると先輩は先程と同じようにカードをシャッフルして山を作り、前に出す。


「次は後輩君です」

「は、はい」


 形容しがたい緊張感に返事が上ずってしまう。

 何も考えずに山を選んでいき、俺も最後の3枚から1つ選んだ。先輩はさっきを全く同じ動作で確認してオープンした。

 カードにはヨギ〇ーみたいな椅子に杖のような物を持って腰を掛けた女性が描かれている。


「『女帝』の正位置です」


 『女帝』はまんま女帝だな。

 またもや長い解説が挟まったので話をまとめると『恋愛成就』、『相手との関係が発展していく』とこんな感じの結果だろうか。

 『幸せな恋愛が~』とも言ってたな。

 でも変なカードが出なくてよかった。まぁ所詮は占いだ。期待しない方が吉だろう。

 結果を伝え終えると先輩は大きく息を吐いた。


「これで終わりです。料金はけっこうです」

「なんでですか?」


 支払いのために財布を準備していると先輩がそう言ってくる。白守さんが代表して聞くと先輩はこちらをじっくりと見る。


「水晶占いで結果が出せなかったからです。それに──」

「それに?」


 言葉を詰まらせたまま何も言わないので復唱して言うと先輩は首を横にゆっくり振る。


「何でもないです。とにかく代金は結構ですので」

「は、はい」


 釈然としないがそういうのなら仕方ない。

 隣に目をやると口の端がいつもより上がっている白守さんがこっちを向いていた。


「じゃ、行こっか」

「ああ」


 弾むような声に少し戸惑うが返事をしてブースから出る。

 すると案内役の人が待っていたので誘導に従い、教室の外へ出た。

 出る間際、俺達にいたブースから寄生が聞こえたような気がしたが気のせいであって欲しい。

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