第49話 予期せぬ結果
「むぅ……」
9月も中旬、妙な緊張感が走るようになった授業終了後、白守さんがふくれっ面で俺を(可愛く)睨んでいた。
似た光景を夏休み前辺りに見たような気がする。
そうだ。文化祭の前にもまたもや試練。なんとなく申し訳ない気持ちになってしまうがこれも学生生活をしているうえでは避けられないことだ。
文化祭の直前に前期末考査。つまり期末テストがある。
白守さんが睨んでいるのはそのため。以前は多少、中学生の頃の範囲も入っていたから難易度は低め、のようだった。
だから未だに授業中に寝ている俺に我慢ならないのだろう。そして次に白守さんの口から発せられる言葉はなんとなく予想できる……。
「寺川君、今度テストでも勝負しよっ!」
「い、いいけど今度は何を賭けるんだ?」
予想通りの答えが返ってくるのは分かっているがとりあえず聞く。
「私が勝ったら今後の授業は──」
この後、以前と全く一緒の回答が来たのは言うまでもない。
***
「ぐぬぬぬぬ……」
テスト返却が終わり、テストの順位が貼りだされた。順位が書かれた紙の前で白守さんが悔しそうに唇を噛む。
今回は100%高校に入ってからの内容だったためか、それとも一部先生達が俺対策で難易度を上げたせいか他の生徒の点数は軒並み下がり、今回の俺の順位は8位とトップ10入りしていた。そして横で悔しがる白守さんは12位と前回と比べると差だけなら詰めている。しかしそれは勝負には関係のない事。
勝負の世界は厳しい、のさ。
白守さんを刺激しないように内心でどや顔をしてみる。
***
「それで今日はデザート付きなんだね」
「ふぁい」
結果発表の翌日、不満な様子を全く見せない白守さんに羊羹を食べさせてもらいながら押谷先輩に返事をする。その顔は少し呆れているように見えた。
別にあ~んは要求にうちに含まれていないのだが、してもらえるならしてもらうに越したことはない。す、好きな人にしてもらってるんだし……。
「でもボクらも貰ってもいいのかい?」
「いいのよ! せっかく美雪がいいって言ってくれてるんだから」
「あのね。タカーラはもうちょっと遠慮をだね……」
口の周りをあんこで汚しながら和菓子を次々と放り込む高荒先輩に押谷先輩の眉尻がさらに下がる。
「いいんです。負けたのは私ですし、みんなで食べた方がおいしいですし」
「確かに。なら白守さんも食べないと、な?」
さっきから俺の手のお飾りになっていた黒文字? だか姫フォーク? かどっちか分からないもので羊羹を一切れを取り、白守さんの口に近付ける。
白守さんはずっと俺の口に和菓子運んでばかりだ。なので白守さんの言葉に便乗して食べさせにかかる。俺もあ~んされてばかりで申し訳ないし。
「へ?」
「何驚いてるんだ」
「だって私、負けたし」
素っ頓狂な声を上げた白守さんに首をかしげながら聞くと、拗ねたような表情で俯いてしまう。
空いてる方の手で白守さんの肩を軽く叩く
「そんなことは気にすんな。白守さんは今回順位詰めてただろ? じゃあ、ある意味勝ったようなもんじゃないか?」
「でも授業中寝るんでしょ?」
「そりゃ、な」
また落ち込むかと思いきや素早い動きで俺が持っていた羊羹を一口で食べてしまう。
そして口元がほころぶ。やっぱり白守さんには笑顔や幸せそうな顔がよく似合う。だから白守さんには──
「いやぁ~青春だねぇ~」
「ええ、これが機◯戦士眼福ってやつね!」
「前の4文字はなんで付いたのか分からないけど、その通りだね」
先輩達の声が俺を思考の世界から連れ戻す。今考えていたことも含めさっきまでの行動を改めて思い出すと首から上が一瞬で熱くなる。
何を思ったのかまたもう一切れ羊羹を白守さんの口へ運んだ。
白守さんも現実に戻った反動で俺と同じように狂ったのか今度は控えめな一口で羊羹の四分の一弱を口に入れた。
***
多少の
クラス和服も届き、チェックも完了、一番大変だと思われたディスプレイ棚も工作部と演劇部のおかげでかなりいいものとなった。なんと少しだけ話に出ていた畳も用意できたようだ。
文化祭まで残すところわずかになった頃の帰りのSHR。
「生徒会の計らいで文化祭の後、後夜祭をやるぞ」
「なに? あの奇祭が帰ってくるのか?」
「もうそれは前に言ったでしょ」
以前と同じことを言うと白守さんにたしなめられるように言われた。
クラスメイト達の視線は冷たいものと興味が含まれている。一応言っておくが奇祭とか云々は嘘だからな、と心の中で言っておく。
「ただし、クラスからは2人ずつしか参加できないそうだ。仲良く話し合って決めておくように」
先生は少し面倒くさそう伝えると帰りの挨拶を日直にさせ、さっさと出て行ってしまった。
『2人』という単語に少しドキドキしてしまう。いや、後夜祭ってことは遅くなるってことだ。だから別に白守さんと行きたいなんてことは……。
なに、こういうのはパリピで陽キャなやつが行くと相場が決まっていそうだ。なら俺(と白守さん)の枠は残っていないだろう。
「寺川君、帰ろっか?」
「ああ。そう言えばあの乱場先輩っていう生徒会長の言った通りだったな」
「そうだね。高荒先輩大丈夫かな?」
「なにがだ?」
白守さんの言葉に俺はいくつか疑問符を浮かべる。確かに高荒先輩と乱場先輩は仲が悪そうだがそれと後夜祭は関係ないはずだ。
「だって高荒先輩も乱場先輩も押谷先輩のことが好きだから……」
「高荒先輩がぁ?」
乱場先輩が押谷先輩のことが好きなのはなんとなく分かった(あと変態っぽいのも)が高荒先輩が押谷先輩のことを、かぁ。普段の感じからイメージできないな。いいコンビだけども。
「高荒先輩、押谷先輩の夢を応援してるしお弁当だって作る時あるんだよ? 絶対そうだって!」
「そう、なのかなぁ」
女子ってそういうのですぐくっついてるくっついてないを決めちゃうからなぁ……。まぁ、想像するだけなら
「そういえば後夜祭、うちのクラスはどうなるんだろうな」
「今、LANEで話し合いしてるのがそうなんじゃない?」
「あー、気のせいじゃないのか。これ」
さっきから渋い声の通知音が連続でするので残っているクラスメイトのものだと思っていたが、これは俺と白守さんの『も』だったのか。
まぁ、明日にはカタが付いてるだろう。行きたい人がいるならその人達に譲るのも悪くない。復活して最初なんだ。不手際もたくさん出るだろうし。
気にはなるけど。
「さすがにうるさいから通知切っておくか」
「それはそうだね」
ポケットからスマホを取り出し、操作をしてLANEの通知を一時的に消した。
一瞬、メッセージ履歴の中に俺の名前が出たような気がしたのだが気のせいだろう。俺は行きたいだなんて一言も言ってないし。
「明日はどうするんだ?」
「そうだね……設営の練習とか」
「でも畳は届いてないんだろ?」
「じゃあ、それ抜きで……」
文化祭への期待を胸に明日からの予定を軽く決めながら白守さんと帰路につく。
未来を恐れてた俺がこんなにも希望が持てるようになるとは人生分からないものだ。
***
翌朝。寝起きの俺はふと後夜祭のことを思い出し、クラスのグループを開く。
するとクラスメイトによって話し合いの結果が書かれていた。
『話し合の結果、後夜祭に行くメンバーは白守さんと寺川君に決まりでいいか?』
最後の文にリアクションでみんなが賛成の意を示している。
寝起きで回らない頭が現実を認識するのに数分かかった。全てを理解した途端、スマホは俺の手からスルリと抜け落ちる。
「どうしてこうなったあああああああああああ!!!!」
朝一番の我が家に俺の全力が響き渡った。
この後、母親に怒られたのは言うまでもない。
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